Evolution of Planetary Surfaces

惑星表層の進化

by Takashi Matsushima, Professor of Univ. of Tsukuba

How was the planetary surface materials formed?
-惑星表層材料の形成-

我々が暮らしている地球の表面:地面は,大小様々な土粒子からできています.また,月面や火星表面も土粒子で覆われています.これらはどのようにして形成されたのでしょうか?
惑星表層は圧力や温度が低く,一旦岩石が割れると元に戻りません.そのため,惑星を構成する地質物質がどんどん細かくなっていき,表面が土粒子で覆われることになります.
破砕を生じるメカニズムは,天体の環境によって異なります.地球上では,主に岩石は水の作用で侵食され,それが河川で運搬される際にも徐々に細かくなっていきます.一部は風によっても侵食・運搬されます.一方,月では流れる水や空気がないので,表層の物質が動くのは,大小様々な隕石の衝突が原因です.巨大な隕石が衝突した際には,高温・高圧により材料が溶融し,大きな岩石が形成されることもありますが,それより遙かに頻度の高い中小隕石の衝突により,材料は粉砕され,細かくなっていきます.
このような形成過程の違いは,粒子物性や,粒子の集合体(粒状体)としての物性にも影響を及ぼします.

クレーター中央丘の形成解析.中央丘が下部の地層が盛り上がって形成されていることがわかる.

Apollo 16 landing site: Descartes Highland (NASA Photos AS16-107-17472 and -17473; Lunar Sourcebook)

Grain properties in various planetary surface
-惑星表層土の粒子物性-

地球表層において,岩石の侵食は主に山地で発生します.流水の作用,凍結融解作用,化学的風化などの作用で,様々な大きさに粉砕された粒子は,河川に沿って下流へと流されます.通常,山地の河川は勾配が急で,流れが速いため,数十cm〜mサイズの大きな巨礫のみが河床に溜まります.一方,下流域になると勾配がなだらかで流れが遅くなるため,数mm〜数cm程度の石礫が溜まり,更に流れの遅い海岸では更に粒径の小さな砂が堆積して砂浜を形成します.砂よりももっと細かい泥や粘土粒子は,海水下で凝集して海底に堆積します.このように,外力の作用で,似た性質を持つ粒子が同じ場所に集まり,異なる性質の粒子群に分離する現象を「分級現象」と呼びます.

そのような土砂移動に伴って,粒子形状も変化します.上流の礫はごつごつして角が尖っていますが,下流に行くほど角が取れて丸くなってきます.これは,水流に流される過程で粒子同士が衝突して磨耗することによります.しかし,下流の全ての粒子が丸いわけではありません.衝突によって磨耗が発生するためには,ある程度の運動量が必要で,粒子があまり小さいと,粒子の硬さに対して衝撃力が弱く,粒子は磨耗しにくくなります.一方,粒子が大きすぎると,衝撃により破砕して,再び尖った角が形成されます.このように,粒子の形状進化は複数の因子が絡み合った結果として理解する必要があります.


岩手県栗駒山上流部

静岡県大井川河口

一方,月面では,水や空気によって長距離移動することがないので,磨耗によって角が取れた粒子はほとんど存在しません.一方,隕石衝突の熱によって融解して形成されたガラス玉のような粒子や,部分的に溶けて,他の粒子とくっついてできた,非常にいびつな粒子(アグルーチネイトと呼ばれます)などが観察されます.アグルーチネイトの含有率が大きいほど,その地層が古いことが確認されており,月の地質図と地盤の物性をある程度関連づけることが可能です.


Lunar soil (Apollo retrived sample No.60501)

火星は,薄いながらも大気があり,また昔は地表に液体が流れていた可能性が示唆されています.火星探査ローバー「キュリオシティー」が撮影した画像からは,磨耗により丸まった土粒子が確認されており,そのような推論を裏付ける証拠の一つとなっています.


Mars soil (Photos taken by Curiosity)

Numerical simulation of fluvial geomorphological process
-流水による地形形成プロセスの数値解析-

地形形成プロセスは,何千年,何万年にも亘る長期間の力学プロセスであり,そのようなプロセスをコンピュータで再現するのは容易ではありません.ただ,何百年に一度の大規模出水といった主要なイベントと,毎年の継続的なイベントとを分けて考えることにより,実際のプロセスを模擬することができる可能性があります.筑波大学地盤工学研究室では,地球上の流水による地形形成プロセスの数値解析手法の開発に取り組んでいます.

DIPM(Depth Integrated Particle Method)と呼ばれる手法による扇状地形成解析(Simulation of alluvial fan formation using DIPM)