筑波大学大学院 システム情報工学研究科 フロンティア工学研究グループ 山本研究室 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 フロンティア工学研究グループ 山本研究室 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 フロンティア工学研究グループ 山本研究室

車両応答分析VRA: Vehicle Response Analysis

> Studies > VRA

車両応答分析を用いた橋梁損傷技術の開発Development of VRA-based Bridge Damage Detection

vra

1. 研究背景

1.1. 社会の課題と需要

多数の高齢化橋梁に対して,点検・更新のために投入可能なリソース(人材・資金)は限界があります.そこで,橋梁群を適切に維持管理するために,限られたリソースを重点的・戦略的に配分する手法の開発が求められます.本研究室では,実測値に基づいたリソースの重点配分を実現するために,橋梁スクリーニング技術の開発を進めています.

信頼性の高いスクリーニング技術が実現できれば,橋梁ひとつひとつに適切な定期点検間隔を設定することや,劣化曲線予測を高精度化して予算の平準化に役立てるなどの効果が期待されます.


1.2. 工学的アプローチ

橋梁スクリーニングの一手法として,本研究室ではセンサを搭載した走行車両の振動データから橋梁の振動成分を抽出し,橋梁の健全性を評価する方法を考えています.

特に期待している技術は,SSMA(Spatial Singular Mode Angle:空間特異モード角)に基づいた手法です.この手法は,元々,橋梁のモード形状を推定するために考案された手法で,損傷検知感度に優れています.


1.3. SSMAの説明

SSMAは橋梁モード形状の推定値です.車上に加速度センサとGPSを搭載します.橋梁上にセンサを設置する必要はありません.車両振動は移動点の振動になります.これを走行位置に応じて空間補正し,橋梁上の固定点における振動データに変換します.つまり,車両振動から橋梁振動を推定します.

空間補正により推定された橋梁振動から橋梁の振動モード形状を推定することができます.センサが前後軸上に設置されているとき,モード形状は2点の離散点での値になります.振幅比の逆正接,つまり,モード形状を単位円上にプロットして角度を求めたものをSSMAと呼称します.

SSMA

SSMAは,さまざまな橋梁損傷に感度良く反応します.したがって,橋梁損傷検知手法に利用できます.精度は低く,損傷の詳細を把握することは未だ困難ですが,スクリーニング目的であることを考慮すると十分であるといえるレベルです.また,本手法の学術的な面から見たアドバンテージは,数値計算・模型実験・実橋梁実験のいずれでも有効性が確認されていることです.

SSMA

図は,数値シミュレーションによるSSMAと走行速度の関係を表します.なお,数値シミュレーションでは,橋梁をFEM(Finite Element Mehot:有限要素法)を用いてモデル化しています.図を見ると,SSMAが走行速度に応じて変化していくことが確認できます.SSMAは本来,橋梁の推定モード形状ですから,走行速度とは無関係であるはずです.速度に依存するということは,それだけ橋梁以外の要素から影響を受けていると考えられますので,推定精度は低いといえます.

しかし,図からは,SSMAの値が損傷前後(青:健全時,赤:損傷時)で明確に変化していることも分かります.つまり,損傷に対する感度は十分高いことがわかります.したがって,SSMAを用いて,損傷検知を実現できると期待できます.


1.4. 技術的課題と今後の方針

SSMAの損傷感度を確認するには,損傷前後で統計量(SSMAの平均や分散など)を求め,比較する必要があります.また,正確にモード形状を推定できなくとも,損傷の位置や規模,種類を同定する方法があればスクリーニングの有効性を高めることができます.他に,温度などの環境因子の影響や路面凹凸による影響,車両パラメータとの関係,SSMAが高い損傷感度を示す理由(メカニズム)の解明などが課題として挙げられます.

2. 本研究に取り組むことによる教育効果


2.1. 数値計算による検討

車両と橋梁の振動応答を数値的に再現するには,VBI(Vehicle-Bridge Interaction:車両橋梁相互作用)システムを解く必要があります.ここで,車両の運動方程式は強制変位入力を受けるバネ質点系または剛体バネとしてモデル化します.一方,橋梁は弾性連続体として有限要素法を用いてモデル化します.

したがって,数値計算に取り組みながら,構造力学・機械力学を同時に習得することができます.また,数値計算力学上のさまざまなテクニックについても学ぶことができます.

  1. 例題で学ぶVBIシステムのプログラミング
  2. 解析・数値計算における研究課題


2.2. 模型実験による検討

模型実験においては,車両と橋梁の両方の模型を用意する必要があります.車両模型の製作においては,モーター駆動する車両の電子工作という形で機械力学や電子工学の知識を実践できます.一方,橋梁模型の設計においては,構造力学(とその続編の鉄筋コンクリート構造学や鋼構造学)で学んだ知識を実践的に修得できます.

本研究室では,鋼製だけでなく紙製の橋梁模型を製作しています.この紙製模型は,細部(ディテール)まで実際の鋼製橋梁を再現できるように試みています.作り始めると,鋼製橋梁が様々な部品から構成されている複雑な構造物であることが分かります.

  1. 模型実験で学ぶVBIシステム
  2. 模型実験における研究課題


2.3. 実橋梁走行実験による検討

実橋梁走行実験では,大規模実験のマネジメント(機材調達,構造計算,作業計画,計測・分析)を学ぶことができます.人工的な損傷を実橋梁に導入するため,さまざまな観点から安全性を確認する必要があります.

  1. フィールド実験で学ぶVBIシステム
  2. フィールド実験における研究課題

3. 今後の展開の可能性

車両応答分析に関する研究には,SSMA以外にも多くのものがあります.

この分野の先駆的研究は,Yang先生の"Indirect Approach"に関する解析的・数値的・実験的研究(国立臺灣大学,台湾,2004~)が挙げられます.車上のセンサは一つで,車両の振動スペクトルから橋梁の固有振動数を大まかに推定するというものでした.損傷検知を試みるには,振動数の推定精度が不十分でしたが,そのアイディアは多くの研究者に引き継がれています.

たとえば,DRIMSで有名な長山智則先生(東京大学)やNTU出身のK.C.Chang先生(京都大学)の研究成果は,振動数ベースの評価手法が有効であることを示しています.これらの研究はSSMAと競合するものではなく,相互補完的に運用できるのではないかと期待しております.また,本研究室では,SSMAだけでなくCWT(Continuous Wavelet Transform:連続ウェーブレット変換)を用いた車両応答分析が有効であることも,数値計算で確認しています.

参考文献

主な発表論文 (2011-2017)

  1. Kyosuke Yamamoto, Yuta Takahashi: Experimental Validation of Bridge Screening Method based on Vehicle Response Analysis, Proc. of World Congress on Engineering 2017, Vol.2, pp.928-933, London, U.K., July 5-7, 2017. PDF (selected as "Certificate of Merit" for ICME, WCE2017!)
  2. Kyosuke Yamamoto, Mikio Ishikawa: Numerical Verification of Bridge Screening Technology based on Vehicle Vibration, Proc. of World Congress on Engineering 2016, Vol.2, pp.933-938, London, U.K., June 29-July 1, 2016. PDF, Presentation (selected as "Best Paper Award" of ICME, WCE2016!)
  3. 石川幹生,山本亨輔:トラス橋部材破断がSSMA分析結果に及ぼす影響の数値的検討,構造工学論文集,Vol.62A,pp.204-211,2016. スライド
  4. 石川幹生,山本亨輔:車両応答分析によるトラス橋部材破断検知手法の数値的検討,鋼構造年次論文報告集,Vol.23,pp.160-167,2015.(優秀論文発表賞受賞)
  5. Yoshinobu Oshima, Kyosuke Yamamoto and Kunitomo Sugiura: Damage assessment of a bridge based on mode shapes estimated by responses of passing vehicles, Smart Structures and Systems, pp.731-753, 2014.
  6. 山本亨輔,大島義信,金哲佑,杉浦邦征:車両応答データの特異値分解による橋梁損傷検知技術の提案と検討,構造工学論文集,Vol.59A,pp.320-331,2013. PDF
  7. 山本亨輔,伊勢本遼,大島義信,金哲佑,杉浦邦征:鋼トラス橋の部材破断が橋梁および走行車両の加速度応答に及ぼす影響,構造工学論文集,Vol.58A,pp.180-193,2012. PDF
  8. 山本亨輔,利波立秋,大島義信,金哲佑,杉浦邦征,川谷充郎:車両応答の統計分析に基づく橋梁損傷検知法,土木学会論文集A2(応用力学),Vol. 67,No. 2,I_855-I_864,2011. PDF
  9. 山本亨輔,大島義信,杉浦邦征,河野広隆:車両応答分析に基づく橋梁モード形状推定手法の開発,土木学会論文集,土木学会論文集A1,Vol.67,pp.242-257,2011. PDF (土木学会論文集論文奨励賞受賞)
  10. 山本亨輔,大島義信,金哲佑,杉浦邦征:車両応答の時間周波数解析に基づく橋梁の損傷検知法,構造工学論文集,Vol.57A,pp.637-645,2011. PDF

その他 (2009-2016)

  1. 森川みどり,山本亨輔:道路舗装の予防保全に向けたSSMAの適用可能性検討,第19回応用力学シンポジウム,札幌,2016.
  2. 石川幹生,山本亨輔:車両応答分析によるトラス橋部材損傷に対する感度の数値的検討,土木学会第43回関東支部技術研究発表会,I-70,東京,2016.
  3. Kyosuke Yamamoto, Kosuke Mori and Mikio Ishikawa: Numerical verification on Wavelet-based Vehicle Response Analysis method for bridge damage detection, The 28th KKHTCNN Symposium on Civil Eng., Bangkok, Thailand, 2015.
  4. Kyosuke Yamamoto, Yoshinobu Oshima and Kunitomo Sugiura: Damage influence on vibration indices of a passing vehicle, the 26th KKHTCNN Symposium on Civil Eng., Singapore, 2013. PDF
  5. Kyosuke Yamamoto and Yuta Nakagama: Errors on bridge vibration data measured by a passing vehicle, the 26th KKHTCNN Symposium on Civil Eng., Singapore, 2013. PDF
  6. Y. Oshima, K.Yamamoto and H. Kawano: Mode shape estimation of a bridge using the responses of passing vehicles, Bridge Maintenance, Safety, Management, Health Monitoring and Informatics, IABMAS2012, pp.3597-3601, 2012.
  7. Kyosuke Yamamoto, Yoshinobu Oshima, Kunitomo Sugiura and Hirotaka Kawano: Bridge Mode Shape Estimation only by using Vehicle Responses, the 24th KKCNN Symposium on Civil Eng., Hyogo, Japan, pp.229-232, 2011.
  8. 山本亨輔,大島義信,杉浦邦征,河野広隆:車両応答のみを用いた橋梁モード形状の推定手法,土木学会全国大会第66回年次学術講演会,pp.1103-1104,松山,2011.
  9. 大島義信,山本亨輔,杉浦邦征:車両応答から推定した橋梁変位に基づく橋梁の損傷同定法,構造工学論文集,Vol.57A,pp.646-654, 2011. PDF
  10. Kyosuke Yamamoto, Ryo Isemoto, Yoshinobu Oshima, Chul-Woo Kim and Kunitomo Sugiura: Modal Parameter Changes of a Steel Truss Bridge due to Member Fracture, the 24th KKCNN Symposium on Civil Eng., Hyogo, Japan, pp.185-188, 2011.
  11. Yoshinobu Oshima, Kyosuke Yamamoto, Chul-Woo Kim, Mitsuo Kawatani and Kunitomo Sugiura: Damage detection of a road bridge based on the statistical analysis of the vehicle's responses, Proc. Advances in Structural Engineering and Mechanics (ASEM'11+), Seoul, Korea, pp.4327-4338, 2011.
  12. Kyosuke Yamamoto, Ryo Isemoto, Yoshinobu Oshima, Chul-Woo Kim, Mitsuo Kawatani and Kunitomo Sugiura: Field Experiment on Vibrations of a Steel Cantilever Truss Bridge before and after Applying Damage, Proc. Advances in Structural Engineering and Mechanics (ASEM'11+), Seoul, Korea, pp.4315-4326, 2011.
  13. Yoshinobu Oshima, Kyosuke Yamamoto and Kunitomo Sugiura: Damage identification of a bridge based on the bridge displacements estimated by the responses of a passing vehicle, the 23rd KKCNN Symposium on Civil Eng., Taipei, Taiwan, pp.181-184, 2010.
  14. Y.Oshima, K.Yamamoto, K.Sugiura, A. Tanaka and M.Hori: Simultaneous monitoring of the coupled vibration between a bridge and moving trains, Bridge Maintenance, Safety, Management, Health Monitoring and Informatics, IABMAS2010, Philadelphia, Pennsylvania, USA, pp.806-812, 2010.
  15. Y. Oshima, K. Yamamoto & K. Sugiura : Stiffness estimation of RC bridges based on vehicle responses, Proc. of Fracture Mechanics of Concrete and Concrete Structures (FraMCoS-7), Jeju, Korea, pp.1136-1142, 2010.
  16. 山本亨輔,大島義信,杉浦邦征:車両応答に基づく橋梁振動推定手法,土木学会全国大会第65回年次学術講演会,pp.1040-1041,札幌,2010.
  17. 山本亨輔,大島義信,杉浦邦友:停車車両と走行車両の応答値に基づく橋梁の振動特性推定法,土木学会全国大会第64回年次学術講演会,830-831,福岡,2009.
  18. Y. Oshima, K. Yamamoto, K. Sugiura and T. Yamaguchi: Estimation of bridge eigenfrequencies based on vehicle responses using ICA, Proc. of 10th international conference on structural safety and reliability (ICOSSAR), Osaka, Japan, pp.780-786, 2009.
  19. Yoshinobu Oshima, Kyosuke Yamamoto and Kunitomo Sugiura: Estimation of Vibration Properties of Bridges using the Responses of Passing and Parking Vehicles, Proc. of 8th Japanese German Bridge Sym., Munchen, Germany, 2009. (CD-ROM)
  20. Kyosuke Yamamoto, Yoshinobu Oshima, Akimitsu Tanaka and Motoharu Hori: Monitoring of coupled vibration between bridge and train, Proc. of the 22nd KKCNN Symposium on Civil Eng., Chiang Mai, Thailand, pp.105-110, 2009.
  21. Yoshinobu Oshima and Kyosuke Yamamoto: Assessment of Bridge Vibration based on Vehicle Responses using Independent Component Analysis, Proc. of the 22nd KKCNN Symposium on Civil Eng., Chiang Mai, Thailand, pp.99-104, 2009.

PAGE TOP