
インフラ構造物運用の知能化研究は、実構造物の応答や周辺環境を計測する「センシング」、供用時や災害時の荷重に対する性能を評価するための「数値解析」、そして構造物センシングデータだけでなく建設時や維持管理でのさまざまなデータを活用する「データ科学」を合わせる研究です。構造物の力学や数値解析の数理への理解に基づいたうえで、確率論的な手法や機械学習を活用するアプローチをとっています。
既存構造物のモニタリングとデータ同化性能解析に関する研究
橋梁など既存インフラ構造物の運用では、点検や補修などの老朽化対策と、耐震補強など将来起こりうる災害リスクへの対応を、コストや人員の制限の下で行っています。技術者の効率的で最適な意思決定を助けるために、数値解析モデルに実構造物で取得するデータから劣化状態などを反映して交通荷重や地震荷重に対する性能を確認するデータ同化法と、そのための構造物モニタリング/センシングの方法について研究しています。
構造物が外力をうけると変位が生じ、その応答の様子をひずみや加速度の計測で捉えることができます。この応答が構造物の劣化損傷によって変化することを用いて、実構造物で取得される計測データで数値解析モデルを更新するデータ同化の方法について研究しています。橋梁などスケールの大きいインフラ構造物で劣化損傷状態に関連する応答を低コストで適切に捉えてデータ同化に用いるための計測・モニタリング技術について、最近は特に画像や点群を用いる方法に注力して研究を進めています。また、現実空間とデータ同化解析をつなげるクロスリアリティ(XR)の活用にも着手しています。
キーワードKeywords
Data assimilation, structural health monitoring (SHM), uncertainty quantification, Bayesian inference, vision-based sensing, point cloud, computer vision, extended reality (XR)
関連する業績Publications
- Sato, K., Nishio, M. (2025). Uncertainty quantification using digital-image-correlation data for load-carrying capacity analysis of structural members with local damages, Structures, 79, 109431.
- Wang, S., Nishio, M. (2024). Anomaly detection in structural dynamic systems via nonlinearity occurrence analysis using video data. Mechanical Systems and Signal Processing, 216, 111506.
- Okuda, T., Saida, T., Matono, G., Nishio, M. (2023). Digital twin framework for real-time dynamic analysis visualization with detecting dynamic changes in structures properties using PINN," Proc. SPIE 12486, Sensors and Smart Structures Technologies for Civil, Mechanical, and Aerospace Systems 2023, 1248616.
インフラ構造物の性能解析・リスク解析とその計算効率化に関する研究
老朽化が問題となっている道路構造物、特に既存橋梁の交通荷重に対する保有性能解析や、地震等の災害リスク解析に関する研究を行っています。このとき、実構造物の挙動を適切にシミュレーションするための数値解析モデル構築法と、その妥当性検証への検討も行っています。また構造物の性能解析やリスク解析は、入力荷重や構造特性に関する不確定性を考慮するモンテカルロ計算が求められ、その計算負荷を低減するための機械学習による代替モデル構築について研究しています。
既存構造物の保有性能を評価するには、例えば橋梁であれば、交通荷重や地震荷重などに対する静的・動的応答解析を行う数値モデルを構築して、構造信頼性に基づく解析を行います。このとき劣化損傷状態をモデル化するため、新しい構造物を設計する時とは異なるモデル化が必要となることがありますが、既存構造物では図面が残っていないことも多く、数値モデル構築が難しくなります。これに対して、UAVなどで取得する点群データから解析目的に適したモデルを構築する研究に取り組んでいます。
また構造信頼性に基づく性能解析では、入力荷重や構造特性の不確定性を確率分布で考慮しなければならず、現実の複雑な不確定性を取扱うにはモンテカルロ計算が必要になります。その計算負荷を低減するため、数値解析を深層学習で代替させるサロゲートモデリングの研究を行っています。最近は研究を広げて、固体や液体の力学シミュレーションを効率化する機械学習や低次元化モデルの研究にも取り組んでいます。
キーワードKeywords
Structural reliability, seismic fragility and risk, finite element method, model V&V, surrogate model, physics-informed machine learning, meshfree analysis, reduced order model (ROM)
関連する業績Publications
- Saida, T., Nishio, M. (2025). ExSRNet: Explainable deep learning model for seismic response prediction with frequency attention mechanism. Engineering Structures, 343, 120953.
- Nakamizo, T., Nishio, M. (2025). Shell Model Reconstruction of Thin-Walled Structures from Point Clouds for Finite Element Modelling of Existing Steel Bridges. Sensors, 25(13), 4167.
- Saida, T., Rashid, M., & Nishio, M. (2024). System fragility analysis of highway bridge using multi-output Gaussian process regression surrogate model. Advances in Structural Engineering, 13694332241291255.
- 的野玄, 西尾真由子 (2024). 高速な深層学習メッシュフリー数値解析のためのニューラルモード分解の定式化と自由表面流れの再構成, 日本計算工学会論文集, 20241003.
構造物運用・維持管理における機械学習・AIの活用研究
インフラ構造物の建設や運用、維持管理で画像や点群に対するAI・機械学習を活用する研究にも取り組んでいます。例えば、橋梁維持管理で重要な役割を担う定期点検での部材損傷度判定を行う深層学習を構築し、その適用性を実務者との検証や可視化技術で検討しています。技術者が構造物運用で専門的判断を行う際に有用な情報の提供や、その判断の代替がどのように可能となるか、またそのためにどのようなデータが必要か、UAVやロボットの技術と合わせることも念頭におきながら検討しています。
多くの工学システムと同様にインフラ構造物の設計や建設、運用や維持管理でも、技術者は専門知識に基づいてさまざまな工学的判断を行っています。例えば、設計における照査計算、着実で安全な建設工事のための工程判断、定期点検での損傷状態への判断や、災害時の交通システム応急復旧への被災度判断といった判断を、将来も持続可能な形で市民が享受できることはインフラ構造物運用に求められる機能の1つです。このような判断を代替したり、判断を補助する情報を提供したりするための機械学習・AI活用研究を行っています。例えば、橋梁定期点検では技術者による目視で実施されている部材損傷判定を代替する画像深層学習の構築と検証、橋梁振動データでの交通量推定などに取り組んできました。新たな展開として、画像や点群データによる構造形式や部材の認識に関する研究、UAVによる自動点検に関連する研究などにも取り組んでいます。
キーワードKeywords
Deep learning, objective detection, segmentation, point colud data, bridge inspection
関連する業績Publications
- 佐藤駿成, 西尾真由子. (2024). 視点重要度を考慮する UAV 橋梁点検の飛行経路最適化と仮想空間内 3D モデルでの検証. AI・データサイエンス論文集, 5(3), 175-185.
- Matono, G., Nishio, M. (2024). Deep learning-based point cloud completion at component-level for application to incomplete bridge point cloud data acquired by field measurements, Computer-Aided Civil and Infrastructure Engineering, 39 (17), 2581-2595.
- Yu, W., Nishio, M. (2022). Multilevel Structural Components Detection and Segmentation toward Computer Vision-Based Bridge Inspection, Sensors, 22(9), 3502.