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1. はじめに

2026 年 8 月 26 日朝(現地時間)、Nepal-China 国境付近の Langtang National Park 周辺で、氷河を含む急激な斜面崩壊に起因するとみられる大規模な土石流・洪水が発生した。USGS は、本イベントを “2026 Nepal Debris Avalanche and Flash Flood” として速報的に整理し、Lende Khola から Trishuli Khola 水系に沿って約 100 km 流下し、Rasuwagadhi 国境施設を含む下流の居住地・道路・橋梁に大きな影響を与えたとしている[1]。発災直後の Kathmandu Post の報道でも、Timure および Syabrubesi 周辺の市場、集落、水力発電施設が被災し、Trishuli 川沿いの下流地域に警戒が呼びかけられたことが報じられている[2]

本報告は、この大規模災害に対して深さ積分粒子法(Depth-Integrated Particle Method: DIPM)[3-8] を用いた初期的な再現解析を行い、到達時刻、到達距離、および主要地点周辺の粒子通過域を衛星画像・被害判読結果と比較した。その上で、流動土砂の物性パラメータを、過去の土石流と比較してその特徴を整理するとともに、将来起こりうる同様の氷河崩落型土石流のリスク評価および被害軽減のための方策を検討する。

2. 用いたデータ

解析地形の標高データには、Copernicus DEM GLO-30 の GeoTIFF を用いた[9]。元データから、経度 84.949861111-85.649861111、緯度 27.800138889-28.500138889 の範囲を切り出して、2521 x 2521 格子、格子間隔 29.0 m として計算した。なお、標高範囲は 382.5-7352.6 m である。

解析結果の描画等で用いた衛星画像は、全体画像に関しては Esri World Imagery の XYZ タイルを用いた[10]。崩壊領域の同定および町周辺の浸水領域と解析の詳細比較のための高解像度画像については、Sentinel-2 L2A および Landsat Collection 2 Level-2 の true color 画像を用いた[11, 12]

図 1(a) は標高データから描いた等高線画像、図 1(b) は同領域の衛星画像と設定した崩落領域を示している。図 2 は図 1 に示した谷筋に沿った距離と標高の関係を示す。図 3 は崩落領域の3次元標高データに衛星画像をマッピングした画像、および画像から同定して設定した崩壊域を示している。

この領域の面積はおおよそ 2.0 x 10^6 m2 であり、平均崩壊深さを 30 m、50 m、100 m としたときの崩壊土量(氷河含む)は、それぞれ 60.0 x 10^6 m3、100.0 x 10^6 m3、200.0 x 10^6 m3 となる。なお、崩壊体積については現時点で推定値に大きな幅がある[13, 14]

図1a 衛星画像と谷筋
図1b 等高線図

図1 対象領域図(土石流が流下した Trishuli 川流域)

図2 谷筋に沿った標高

図2 谷筋に沿った標高

図3 左
図3 右

図3 崩落領域の3次元標高データと設定した崩壊域

3. DIPM 解析の概要と用いたパラメータ

本解析で用いた DIPM では、流動の深さ方向に積分平均を取った支配方程式(浅水流方程式とも呼ばれる)を粒子法で離散化して解析を行う。各計算粒子は一定の体積を持つ土柱として扱われ、地形勾配、重力、底面抵抗、および粒子間の水圧勾配に由来する相互作用によって運動する。

本手法では、計算粒子同士の相互作用を近傍粒子との2体間相互作用の重ね合わせで表現することにより、少ない粒子数で安定して解析を行うことができる。これにより、今回のような 100 km にも及ぶ大規模流動解析を PC で短時間に実施し、計算条件を変更して多数の解析を行うことが可能となる。

本第1報では、表1に示す解析ケースについて検討した。メッシュサイズは 29 m、2521 x 2521 メッシュ(約 73.1 km x 73.1 km)の領域について計算を行った。初期崩壊土粒子は千鳥格子に配置し、粒子数は 1157 個、一つの土柱の初期高さ H は 60 m としたため、全流動土砂体積は 58.4 million m3 となる。

表1 解析ケース
Case No.Manning 係数 n限界堆積角 i_cr (deg)初期土柱高さ H (m)
010.02060
020.03060
030.04060
040.03030
050.03015
060.030.560
070.03160

4. 解析結果

4.1 土石流の到達時刻と流動速度

表1に示された解析ケースについて、流動先端 10 粒子の平均位置の時刻歴を図 4 に示す。これは土石流先端の谷筋に沿った到達距離を表している。限界堆積角が 0 度以外の時は土石流が途中で停止するが、0 度の時は通常の水の流れのように流動し続ける。また、Manning 係数が大きいほど、土石流の流動速度が遅くなる。

これまでに、多くの調査報道により、主要な地点での土石流到達時間が調べられている[15-17]。表3および図4にその結果を示す。この時間は、USGS が地震波より推定した氷河斜面崩落時刻[18]を基準とした流動時間である。観測結果との比較によれば、DIPM 解析での Case 1 または Case 2 (n = 0.02-0.03, i_cr = 0 deg) が観測結果と比較的合致する。

図4 到達距離の時刻歴

図4 谷筋に沿った土石流の到達距離の時刻歴

表3 観測記録・映像・調査報告から推定された土石流・洪水フロントの到達時刻
Location崩落地からの距離 (km)推定到達時刻 (min)Source
Rasuwagadhi19.67[15]
Timure *122.98[16]
Syapru Besi34.813[17]
Betrawati61.943[17]
Galchhi99.9111[17]

*1 文献[14]では約 16 分との推定も報告されている。

図5は、土石流先端の位置と流動速度の関係を示している。到達時刻の観測記録がもっとも合致する n = 0.02-0.03, i_cr = 0 deg のケースでは、土石流フロントの初期速度は 100 m/s 程度となり、その後低下するものの、Rasuwagadhi で 30 m/s 程度、Timure で 25 m/s 程度となっている。

図5 位置と流動速度

図5 土石流先端の位置と流動速度の関係

4.2 代表事例の流動図

図6に、Case 2 (n = 0.03, i_cr = 0 deg) の流動図を示す。複雑な谷筋に沿って、土石流が流下している様子がわかる。今回の解析では、土石流時に Trishuli 川を流れていた水や、土石流流下時の河床侵食による土砂増加などは考慮していない。

図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図6f
図6g
図6h
図6i
図6j
図6k

図6 Case 2 (n = 0.03, i_cr = 0 deg, H = 60 m) での流動図

4.3 解析での浸水域と観測被害域の比較

図7に、いくつかの地点における土石流堆積物の衛星写真と DIPM 解析の Case 2 による流動範囲の比較図を示す。DIPM の流動幅は、全体として実際の土砂堆積領域に比べてやや広がっている。これは解析において用いた DEM の pixel サイズ(29 m)および崩壊土砂のモデル化サイズの粗さが考えられるが、単一材料パラメータの使用や横方向相互作用モデルの影響についても今後検討が必要である。

図7 行1左
図7 行1右
図7 行2左
図7 行2右
図7 行3左
図7 行3右
図7 行4左
図7 行4右

図7 各地点の浸水域と DIPM 解析結果の比較

5. 既往研究とのパラメータ比較

DIPM では、Manning 係数 n が速度依存の底面抵抗を、限界堆積角 i_cr が流動状態から堆積・停止へ移るための有効なしきい値を主として支配する。したがって、n は河床粗度だけでなく流動体と底面の速度依存抵抗をまとめた有効パラメータであり、i_cr も含水状態や流動化の影響を含む有効な堆積・降伏パラメータとして解釈すべきものである。

既往の DIPM 解析で同定された代表値と今回の値を表4において比較すると、今回の Nepal 土石流においては n も i_cr も非常に小さい値となっている。今回の崩壊が土砂のみでなく氷河氷・氷河性堆積物を含む崩壊物質であったこと、Trishuli 川がモンスーン期で流量が多かったことなどが影響し、土石流が 100 km 以上も流下し、大きな被害をもたらした可能性がある。

表4 既往の DIPM 解析における n と i_cr の比較
LocationManning 係数 n限界堆積角 i_cr (deg)Source
Zhouqu0.1026 (dry loose deposit)[4]
Kumamoto0.05-0.105-7[6]
Atami0.108.5[7]
USGS experiment0.0755[8]
Hokkaido0.05-0.153-10[8]
Nepal (this study)0.02-0.030

6. おわりに:本解析の限界と今後の課題

本報告では、2026 年 8 月 26 日に Nepal-China 国境付近で発生した氷河を含む大規模斜面崩壊に起因する土石流・洪水について、Copernicus DEM を用いた広域地形モデルを構築し、深さ積分粒子法(DIPM)による初期的な再現解析を行った。約 100 km に及ぶ流下現象を一つの解析領域内で計算し、主要地点への到達時刻、土石流・洪水フロントの流動速度、および衛星画像から判読された被災域との比較を行った。

現時点で得られた観測・報道情報との比較では、Manning 係数が比較的小さく、限界堆積角が 0 deg に近い条件において、長距離にわたる高速な流下挙動が比較的よく再現された。既往の DIPM 解析で得られている代表的な値と比較しても、本イベントで必要となる流動抵抗および有効降伏抵抗は小さい傾向を示した。

本解析は速報的な第1報であり、到達時刻、初期崩壊体の形状、氷と土砂の割合、河川水や河床侵食、支流との合流、流下に伴う材料組成の変化など、いくつかの重要な不確実性が残されている。今後、観測情報の更新に応じて解析条件を逐次修正することで、同様の高山域における氷河崩壊型土石流・洪水に対する迅速な広域リスク評価手法として発展させることを目指している。

本災害により被災されたすべての方々に心よりお見舞い申し上げます。被災地域の一日も早い復旧と、被災された方々が一日も早く平穏な生活を取り戻されることを心より願っております。

参考文献

  1. U.S. Geological Survey, “2026 Nepal Debris Avalanche and Flash Flood”, Landslide Hazards Program, 2026. https://www.usgs.gov/programs/landslide-hazards/science/2026-nepal-debris-avalanche-and-flash-flood 本文へ戻る
  2. The Kathmandu Post, “Flash flood hits Rasuwa, damages hydropower projects and markets”, 26 August 2026. https://kathmandupost.com/national/2026/08/26/major-flood-damages-syabrubesi-hydropower-projects-in-rasuwa 本文へ戻る
  3. Zhang, N. and Matsushima, T.: “Simulation of rainfall-induced debris flow considering material entrainment,” Engineering Geology, Vol. 214, pp. 107-115, 2016. DOI: 10.1016/j.enggeo.2016.10.005. 本文へ戻る
  4. Zhang, N. and Matsushima, T.: “Numerical investigation of debris materials prior to debris flow hazards using satellite images,” Geomorphology, Vol. 308, pp. 54-63, 2018. DOI: 10.1016/j.geomorph.2018.02.008. 本文へ戻る
  5. Zhang, N., Matsushima, T. and Peng, N.: “Numerical investigation of post-seismic debris flows in the epicentral area of the Wenchuan earthquake,” Bulletin of Engineering Geology and the Environment, Vol. 78, No. 5, pp. 3253-3268, 2019. DOI: 10.1007/s10064-018-1359-6. 本文へ戻る
  6. Ahmed, M. E. and Matsushima, T.: “Evaluation of soil properties of natural slopes from case histories and GIS,” Proceedings of the International Conference on Computational Science (ICCS 2019), 12p, Singapore, 2019. 本文へ戻る
  7. Chowdhury, F. H. and Matsushima, T.: “Modeling the Atami debris flow using the depth-integrated particle method and GIS: Flow characteristics and future risk assessment,” Natural Hazards Research, Vol. 5, pp. 705-718, 2025. DOI: 10.1016/j.nhres.2025.03.008. 本文へ戻る
  8. Chowdhury, F. H. and Matsushima, T.: “Quantitative evaluation and wide-area simulation of post-failure debris flows using the depth-integrated particle method,” Geoenvironmental Disasters, Vol. 13, Article 17, 19p, 2026. DOI: 10.1186/s40677-025-00357-1. 本文へ戻る
  9. Copernicus Data Space Ecosystem, “Copernicus DEM - Global and European Digital Elevation Model”. https://dataspace.copernicus.eu/explore-data/data-collections/copernicus-contributing-missions/collections-description/COP-DEM 本文へ戻る
  10. Esri, “World Imagery MapServer”. https://services.arcgisonline.com/ArcGIS/rest/services/World_Imagery/MapServer 本文へ戻る
  11. European Space Agency (ESA) / European Commission, “Sentinel-2 Level-2A,” Copernicus Data Space Ecosystem, 2026. https://dataspace.copernicus.eu/data-collections/copernicus-sentinel-missions/sentinel-2 本文へ戻る
  12. Earth Resources Observation and Science (EROS) Center, “Landsat 8-9 Operational Land Imager / Thermal Infrared Sensor Level-2, Collection 2,” U.S. Geological Survey, 2020. DOI: 10.5066/P9OGBGM6. https://www.usgs.gov/landsat-missions/landsat-collection-2-level-2-science-products 本文へ戻る
  13. Park, H.: “A rock-ice avalanche and the 2026 Bhote Koshi-Trishuli flood, Nepal,” EarthArXiv, preprint, 2026. DOI: 10.31223/X5250R. 本文へ戻る
  14. Center for Land Surface Hazards (CLaSH): “August 2026 Nepal Trishuli Flood,” StoryMap, updated 2 September 2026. Seismic volume estimates by Christopher Calvelage, EarthScope. https://storymaps.arcgis.com/stories/f2b2425eac544929a7d18f4c90b41d66 本文へ戻る
  15. HiRISK, “A cascading high-mountain disaster: Rasuwa Flood, 26 August 2026,” Rapid Hazard Assessment, 2026. https://rasuwaflood.org/event.html 本文へ戻る
  16. OnlineKhabar, “‘Nothing is left of Timure Bazaar’,” 26 Aug. 2026. https://english.onlinekhabar.com/nothing-is-left-of-timure-bazaar.html 本文へ戻る
  17. Ram Kumar DC, “How the Bhotekoshi flood unfolded over 10 hours,” The Kathmandu Post, 27 August 2026; based on the initial technical report of the Flood Forecasting Division, Centre of Hydrology and Water Resources Research. https://kathmandupost.com/national/2026/08/27/how-the-bhotekoshi-flood-unfolded-over-10-hours 本文へ戻る
  18. U.S. Geological Survey (USGS), “M 5.2 Landslide - 55 km NW of Kodari, Nepal,” USGS Earthquake Hazards Program, Earthquake Event Page, Event ID: us7000tbwb, 26 August 2026. 本文へ戻る