燃焼学について

 

 

 

 

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この内容は特に学類・学部生、大学院受験生向けに平易に書いているので学問的にはやや大雑把な部分がありますが、ご了承下さい。

 

たいまつ、焚き火、かまど、暖炉からジェットエンジンやロケットエンジンに至るまで、文明の発祥以来、火は人間の活動にとってきわめて身近で重要な存在であり続けてきました。ところがそのような存在でありながら、燃焼現象を精密な科学に基づいて説明できるようになってきたのは最近のことです。20世紀半ば、航空宇宙エンジンの開発に呼応して燃焼の研究は活発になり、その中で流体力学の巨人von KarmanAerothermochemistry(反応性ガス力学)を確立しました。反応性ガス力学では燃焼現象を一般に「化学反応を伴った熱流体現象」として取り扱い、その基礎方程式としては多成分系の熱流体力学における各式に適宜、化学反応項が付加されたものが用いられます。この反応性ガス力学は燃焼現象の本質を完全につかんでおり、現在では数値計算や理論的研究のみならず、実験結果の解釈においてもその基礎方程式が当然のように用いられています。そして多くの層流火炎の数値シミュレーションにおいて、温度分布や主要化学種の濃度分布、燃焼速度などについて実験結果ときわめて良好に一致する計算結果を得ることができています。

化学反応項は一般にアレニウス型exp(-E/RT)の温度依存性を有します(E:活性化エネルギー、R:普遍気体定数)。この形はきわめて非線形性が強く、その結果燃焼においては明確に非線形的な現象が現れます。その典型が着火と消炎です。例えば噴射管から同軸流空気中に燃料を噴射している定常な場を考えるとき、全く同じ境界条件(噴射管上流や周囲空気の温度、濃度、流速)に対して、一般に「火炎が存在している状態」と「火炎が存在していない状態」の2つが実現可能です。前者の状態では燃料と空気中の酸素の間で化学反応が生じていますが後者の状態では単に燃料と空気の混合が起きているだけです。すなわち全く同一な条件に対して、まさに多重解が存在しているわけです。そしてこの2つの解の間を遷移する過程が着火と消炎です。

燃焼の研究というとエンジン等の実用機器の開発に近い、非常に実用的な研究である印象を受ける方々も多いと思いますが、このような非線形現象の本質を探るという基礎科学的な側面が大きいということを、ここでは強調しておきたいと思います。そしてもちろん実用機器における燃焼においてもそのような非線形性がもたらす複雑な現象が現れ、その解明が機器開発の鍵を握るということも多いのです。

(文責 西岡牧人)