延焼を伴う大規模火災時の建物の崩壊危険性評価

Collapse Risk Evaluation of Buildings due to Large-Scale Fire Spread

Abstract


高層建築物で火災が生じると,崩壊などの甚大な被害が生じる可能性がある.実際,2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件(9.11事件)により高層ビル3棟が大規模火災後に完全崩壊したという事例がある.この事件では,ニューヨーク世界貿易センタービル(WTC)1号棟と2号棟において,航空機衝突によるジェット燃料の拡散から大規模火災が発生し,その後,進行性崩壊に至った.また,同敷地内のWTC7号棟でも下層部で大規模火災が発生し,その約7時間後に完全崩壊した.2008年11月に発表されたNISTによるWTC7号棟に関する報告書によると,破片による損傷よりも,その後に発生した火災によって建物のキーエレメントとなる重要な柱が損壊したことが,主な崩壊要因となった可能性が示唆されている.火災による建物の崩壊を防止するためには,火災範囲や発生階層などの火災条件に応じた建物の崩壊形態を予測することが重要である.大井らは,火災平面位置,火災発生階層,火災発生層数の3種類の火災条件を変更し,火災による構造部材の耐力低下を表現した火災崩落解析を行っている.また,建物の全体強度に対して個々の柱の寄与度を数値化したキーエレメント指標(𝐾𝐼)を用い,火災範囲内で耐力低下した柱の𝐾𝐼積算値と建物の崩壊規模との相関関係が調査された.その結果,𝐾𝐼積算値がある閾値を超えると崩壊を開始することを見出し,𝐾𝐼により建物の崩壊危険性を定量的に予測できることを示した.しかしこの研究では,火災範囲内の柱の耐力を同時に低下させており,火災条件に延焼を考慮していない.現実では火災発生箇所から徐々に延焼することが考えられるため,延焼を伴う火災時の建物の崩壊危険性を予測することが求められる.そこで本研究では,延焼を考慮した火災崩落解析を行い,延焼の進行による建物の崩壊危険性を定量的に評価することを目的とする.解析対象,解析方法,火災の表現方法,また建物の崩壊危険性の評価方法は大井らの研究で用いられた方法と同様のものを用いる.解析対象は10層の鋼構造建築物とし,最小限の要素分割で高精度な解を得ることができるASI-Gauss法を用いて解析を行った.


In this paper, collapse analyses of a steel framed building under large-scale fire spread were performed. We used the ASI-Gauss code, which can stably compute non-linear phenomena such as member fracture, as a numerical code in this research. Based on the numerical result, we investigated the collapse risk of the building using relationship between integrated values of key element index and heights of the building. It was confirmed that the building begun to collapse when the integrated value of key element index of the columns in the fire range reached a specific threshold.


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