科目名:鋼構造学(2020年度版)第03回
作成日:2020年09月29日(月)
更新日:2020年10月28日(水)
作成者:山本亨輔(筑波大学・システム情報系・助教)
前回,構造力学の復習として,棒材の力学を学習しました.今回は,梁の力学を学習します.
梁の内力やたわみの計算では,必ず積分計算が出てきます.分布荷重からたわみを求める場合,繰り返し回数は4回となり,計算ミスしがちです.そこで,計算ミスを回避するために,作図によって解く方法や,予めよく出てくるパターンを暗記して組み合わせて使う方法などがあります.
先ず,何故,積分計算が出てくるのかを確認します.梁から,図1のように長さ\(\varDelta x\)の微小な局所系を取り出します.局所系に働く力を内力と言い,元・外力と断面力の2種類があります.元・外力は,分布荷重\(\textcolor{#FF0000}{p\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)とします.なお,切り出した局所系に支点が含まれる場合,反力は\(\textcolor{#FF0000}{p\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)に含まれるものと考えます.
局所系全体に働く元・外力は,\(x\)から\(x+\varDelta x\)まで\(\textcolor{#FF0000}{p\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)を積分したものになります.第01回にて,右側の切断面では,せん断力を下向き:正として定義しました.よって,作用・反作用の法則より,左側の切断面では上向きが正の方向になります.よって,図1-2のようにせん断力\(\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)が上向きに,\(\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}\)が下向きに作用します.また,曲げモーメントについても,右側の切断面では,反時計回りを正と定義していましたので,同様に,左側の切断面では時計回りが正の方向となり,それに合わせて図1-3のように曲げモーメント\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\),\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}\)が働きます.積分計算用に\(x\)軸方向に位置\(\textcolor{#00B050}{\chi}\)を用意する(図1-4)と,力のつりあい式は, \begin{equation} \int_x^{x+\varDelta x}{\textcolor{#FF0000}{p\left(\textcolor{#000000}{\chi}\right)}\diff{\chi}}+\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}-\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}=0 \end{equation} となります.また,回転中心:位置\(x\)として,力のモーメントのつりあい式は, \begin{equation} \int_x^{x+\varDelta x}{\left(\chi-x\right)\times\textcolor{#FF0000}{p\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\diff{\chi}}-\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}-\varDelta x \times\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}+\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}=0 \end{equation} となります.
ここで,\(\textcolor{#FF0000}{p\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)の積分を\(\textcolor{#FF0000}{P\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)とします.つまり,\(\textcolor{#FF0000}{p\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}=\pdif{\textcolor{#FF0000}{P}}{x}\)となります.これを式(1)に代入して\(\varDelta x\)で割ると, \begin{equation} \frac{\textcolor{#FF0000}{P\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}-\textcolor{#FF0000}{P\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}}{\varDelta x}+\frac{\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}-\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}}{\varDelta x}=0 \nonumber \end{equation} を得ます.さらに,\(\varDelta x\)をゼロに限りなく近づけることにすると, \begin{equation} \pdif{\textcolor{#0070C0}{V}}{x}=\textcolor{#FF0000}{p\left(\textcolor{#000000}{x}\right)} \end{equation} と書き直すことが出来ます.これは,せん断力は外力の積分であるということを表しています.また,式(2)に式(3)を代入すると, \begin{equation} \int_x^{x+\varDelta x}{\left(\chi-x\right)\pdif{\textcolor{#0070C0}{V}}{\chi}\diff{\chi}}-\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}-\varDelta x \times\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}+\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}=0 \nonumber \end{equation} となります.部分積分を用いて式変形し,他の項は順序を並べ替えます. \begin{equation} \left(\Bigl[\left(\chi-x\right)\times\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{\chi}\right)}\Bigr]_x^{x+\varDelta x}-\int_x^{x+\varDelta x}{\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{\chi}\right)}\diff{\chi}}\right)-\varDelta x \times\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}+\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}-\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}=0 \nonumber \end{equation} すると,この式は下のように式(1)と同じ構造の式に帰結します. \begin{equation} -\int_x^{x+\varDelta x}{\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\diff{x}}+\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x+\varDelta x}\right)}-\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}=0 \nonumber \end{equation} 式(1)から式(3)へ変形したのと同じ操作を考えれば, \begin{equation} \pdif{\textcolor{#0070C0}{M}}{x}=\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)} \end{equation} が得られます.これは,曲げモーメントはせん断力の積分であるということを表します.まとめると,外力を積分するとせん断力が,せん断力を積分すると曲げモーメントが得られる,ということが分かりました.なお,この式(4)を梁の方程式1と呼ぶことにします.
梁では,外力の積分がせん断力,せん断力の積分が曲げモーメントとなる
外力の積分がせん断力であることから,\(x=0\)の位置から順に外力(荷重と反力)を足していけば,位置\(x\)におけるせん断力\(\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)が求められることが分かりました.また,さらに積分すると曲げモーメント\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)が求められます.平面保持仮定により,曲げモーメント\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)と曲率\(\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)が関連付けられますので,さらに積分してたわみ角\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\),たわみ\(\textcolor{#0070C0}{v\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)が求められます.しかし,何度も(今回は4階積分!!)積分を行うのは大変なので,ここでは簡単にイメージ(図上)で答えを求める方法を学びます.例題として,第01回例題3を再び取り上げます.
例題1 |
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長さ\(L\),ヤング率\(E\),断面二次モーメント\(I\)の均質な単純梁がある.図8のように集中荷重\(\textcolor{#FF0000}{P}\)が作用する時,点\(\mathrm{C}\)におけるたわみ\(\textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm{C}}}\)を求めよ. |
図3にせん断力\(\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)のグラフを描いていきます.これをせん断力図と言います.横軸は切断面位置\(x\)です.先ず,外力図(図3-2)を描き,外力を確認します.次に,せん断力図の軸を用意(図3-3)し,\(x\leq 0\)においてせん断力がゼロであることを確認します.これは,せん断力は内力であり,全体系の外側に内力が生じ得ないことから自明です.これをゼロ・スタート(図3-4)と呼ぶことにします.
さて,\(x=0\)においては外力\(\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm{A}}}\)(\(=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}}{2}\))が働いていますので,この位置のせん断力に外力\(\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm{A}}}\)を加えます(図3-5).このことから,\(x=0\)におけるせん断力は2つの値\(0\)と\(\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm{A}}}\)を持つことが分かります.点Aから点Cまでは外力がないので,そのまま一定の値となり(図3-6),せん断力は\(0\leq x \leq \frac{L}{2}\)の範囲において\(\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm{A}}}\)(\(=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}}{2}\))となります(図3-7).点Cでは荷重\(\textcolor{#FF0000}{P}\)が下向きに働くのでその分がせん断力に加わります(図3-8).よって,点C(\(x=\frac{L}{2}\))において,せん断力は\(\frac{\textcolor{#FF0000}{P}}{2}\)と\(-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}}{2}\)の2つの値となることが分かります.\(\frac{L}{2}\leq x\leq L\)においては外力がないのでせん断力は一定となります(図3-9).この範囲において,せん断力は\(-\textcolor{0070C0}{R_{\mathrm{B}}}\)となっています.最後に点B(\(x=L\))において\(\textcolor{0070C0}{R_{\mathrm{B}}}\)が加わり,せん断力はゼロとなります.全体系の外では内力は必ずゼロですから,ここで必ずゼロに戻ります.これをゼロ・エンドと呼ぶことにします.
同様に,曲げモーメント\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)のグラフを図4に描きます.曲げモーメント\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)は,せん断力\(\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)の積分で表されるので,面積を求めていけば良いと考えられます.図4-2のように\(0\leq x \leq \frac{L}{2}\)の範囲において,\(\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)は幅\(\frac{L}{2}\),高さ\(\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm{A}}}\)(\(=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}}{2}\))の長方形なので,面積は\(\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{4}\)となります(図4-3).これはA点(\(x=0\))からC点(\(x=\frac{L}{2}\))まで進む間に\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)は,\(\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{4}\)上がる,という事を意味しています(図4-4).A点(\(x=0\))では,内力が全体系の外ではゼロであることから,ここでもせん断力同様にゼロ・スタートと考えることが出来ます.したがって,\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{0}\right)}=0\),\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{\frac{L}{2}}\right)}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{4}\)であると分かります.また,この区間でせん断力は一定,つまり0次式なので,積分すれば直線になります.よって,A点とC点での曲げモーメントの値を表す2点を直線で繋げば(図4-5,図4-6),曲げモーメント図となります.
図4-7のように\(\frac{L}{2} \leq x \leq L\)の範囲についても同様に,せん断力図の面積を求めます.但し,ここでは高さが\(-\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm{B}}}=-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}}{2}\)になっていますが,面積を求める時に,正負はそのまま区別します.つまり,この長方形の面積は,\(-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{4}\)となります(図4-8).これは,点C(\(x=\frac{L}{2}\))から点B(\(x=L\))まで進む間に\(\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{4}\)下がる,ということを意味します(図4-9).点Cでは\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{\frac{L}{2}}\right)}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{4}\)となっていますので,点Bでは\(\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{4}-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{4}=0\)となります.2点を直線で結べば(図4-10),曲げモーメント図が出来ます(図4-11).この時,ここでもゼロ・エンドとなっていることを確認します(図4-12).
さて,第01回2.2で,平面保持(\(\varepsilon=-\phi y\))とフックの法則(\(\sigma=E\varepsilon\))を仮定すると,曲げモーメント\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)と曲率\(\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)の関係は, \begin{equation} \textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}=EI\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{x}\right)} \end{equation} となるのでした.よって,曲率分布図は曲げモーメント図となることが分かります(図5).さらに,定義より,曲率\(\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)を\(x\)で積分すれば,たわみ角\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\),たわみ\(\textcolor{#0070C0}{v\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)が求められます.
図6にたわみ角\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)を描きます.先ず,たわみ角は変形量ですので,内力のようなゼロ・スタート,ゼロ・エンドはありません.ですので,スタート位置はわからないということに注意が必要です.また,曲率が1次式なので,たわみ角は2次式になる・・・ということも分かります.曲率\(\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)が\(x=0\)においてゼロであることから,放物線の頂点部分がここに来るとわかります.曲率\(\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)のA点(\(x=0\))からC点(\(x=\frac{L}{2}\))までの面積を求めると,\(\frac{1}{2}\times \frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{4EI}\times \frac{L}{2}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{16EI}\)なので,これでA点(\(x=0\))からC点(\(x=\frac{L}{2}\))まで進む間に\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)は\(\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{16EI}\)上がることが分かります(図6-4).以上の情報を総合すれば,図6-5のように,\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)を描くことが出来ます.C点(\(x=\frac{L}{2}\))からB点(\(x=L\))までも同様に,極値が\(x=L\)であること,2次式であること,C点からB点まで進む間に\(\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{16EI}\)上がること,を曲率\(\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)の図から確認します(図6-8).
さて,グラフの形状を描くことは出来ました.しかし,初期値が分からないので,図を完成させることが出来ません.そこで,境界条件を考えます.この問題の境界条件は,\(\textcolor{#0070C0}{u\left(\textcolor{#000000}{0}\right)}=\textcolor{#0070C0}{u\left(\textcolor{#000000}{L}\right)}=0\)です.これは,\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)の面積がゼロであることを表します.ここで言う面積は正負を持って良いので,\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)図に横軸を引いた時,上側に出ている部分の面積と下側に出ている部分の面積が等しくなっていれば,正しく引けたということになります.図6-8に描かれている2つの放物線は点C(\(x=\frac{L}{2}\))に対して点対称であることから,\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{\frac{L}{2}}\right)}=0\)となるように横軸を引きます(図6-9).すると,端部でのたわみ角はそれぞれ\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{0}\right)}=-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{16EI}\),\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{L}\right)}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{16EI}\)と分かります(図6-10).
たわみ角図の面積を求めるには,\(\int_0^1{x^2\diff{x}}=\left[\frac{x^3}{3}\right]_0^1=\frac{1}{3}\)を利用します.AC間の面積は,面積1の正方形から\(y=x^2\)のグラフの面積\(\frac{1}{3}\)を差し引いた部分を考え,幅と高さに応じて拡大縮小すれば求められます.つまり, \begin{equation} S=\frac{2}{3}\times\left(-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{16EI}\right)\times\frac{L}{2}=-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{48EI} \end{equation} と考えられます.ですので,境界条件\(\textcolor{#0070C0}{u\left(\textcolor{#000000}{0}\right)}=\textcolor{#0070C0}{u\left(\textcolor{#000000}{L}\right)}=0\)から,この時点で,求めるたわみが, \begin{equation} \delta_{\mathrm C}=-\textcolor{#0070C0}{v\left(\textcolor{#000000}{\frac{L}{2}}\right)}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{48EI} \end{equation} であると分かります.
たわみ分布図の描き方も見ておきましょう.要点は,境界条件を考慮すること,\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)の面積を素早く求めること,極値を探すこと(\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}=0\)の点を探すこと),2次曲線の積分によって3次曲線が描かれることに注意すること,となります.図7-2のように境界条件\(\textcolor{#0070C0}{u\left(\textcolor{#000000}{0}\right)}=\textcolor{#0070C0}{u\left(\textcolor{#000000}{L}\right)}=0\)を先ず,確認しましょう.見た目は内力(せん断力・曲げモーメント)のゼロ・スタート,ゼロ・エンドと似ていますが,これが内力は全体系の外側でゼロだから…という理由であったのに対して,今回は境界条件で与えられているからであって,全く異なる操作である点に注意して下さい.図7-3のように,面積の分だけ移動すること,図7-4のように極値の確認によって,たわみ分布図の3次曲線が引けます(図7-5,図7-6).右半分も同様の操作(図7-7,図7-8)をすると,たわみがB点でゼロとなり,境界条件と矛盾しない図が描けることが分かります.これによって,たわみ分布図が図7-9のように完成します.
これまで見てきたように,梁の問題(荷重が与えられて,たわみを求める問題)では,外力分布の関数を直接4階積分する方法と,図を描いていく方法(図形で面積を求めていく方法)があることが分かりました.しかし,より複雑な問題を解く場合は描画に苦労しますし,不静定問題ともなるとお手上げになります.そこで,より強力な方法として,有名な問題の丸暗記と不静定問題への応用方法を学習します.
念の為,単純梁と同じ様に,片持ち梁のせん断力図,曲げモーメント図,たわみ角図,たわみ図を描画する方法を学びます.
例題2 |
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長さ\(L\),ヤング率\(E\),断面二次モーメント\(I\)の均質な片持ち梁がある.図8のように集中荷重\(\textcolor{#FF0000}{P}\)が作用する時,点\(\mathrm{B}\)におけるたわみ\(\textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm{B}}}\)を求めよ. |
解き方は,単純梁の時とほとんど同じです.先ず,固定端には反力として鉛直方向に\(\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm A}}\),反時計回りの力のモーメント\(\textcolor{#0070C0}{M_{\mathrm A}}\)が作用しているとします.力のモーメントは時計回りとしても結果は同じになります.全体系の力のつりあい式は, \begin{eqnarray} \textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm A}}-\textcolor{#FF0000}{P}=0 \\ \textcolor{#0070C0}{M_{\mathrm A}}-\textcolor{#FF0000}{P}L=0 \end{eqnarray} となり, \begin{eqnarray} \textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm A}}=\textcolor{#FF0000}{P} \\ \textcolor{#0070C0}{M_{\mathrm A}}=\textcolor{#FF0000}{P}L \end{eqnarray} と求められます.
次に,せん断力図を作成します.せん断力は内力なので,ゼロ・スタート,ゼロ・エンドの法則が使えます.但し,A点(\(x=0\))では反力\(\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm A}}\)が加わり,せん断力はゼロと\(\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm A}}\)(\(=\textcolor{#FF0000}{P}\))となり,点B(\(x=L\))では荷重\(\textcolor{#FF0000}{P}\)が下向きに作用するので,せん断力は\(\textcolor{#FF0000}{P}\)とゼロになります.全区間でせん断力は\(\textcolor{#FF0000}{P}\)一定です.一定は直線なので1次関数と勘違いしやすいのですが,これは関数では定数項に相当しますので,0次関数になります.(図9-2)
次に曲げモーメント図の作図を行います.先と同様に,ゼロ・スタート,ゼロ・エンドの法則が使えます(図9-3).但し,A点(\(x=0\))では反力\(\textcolor{#0070C0}{M_{\mathrm A}}\)が加わり,せん断力はゼロと\(-\textcolor{#0070C0}{M_{\mathrm A}}\)(\(=-\textcolor{#FF0000}{P}L\))となります.ここで,注意したいことは,負号が付くことです.曲げモーメントは反時計回りを正として定義されていますので,位置\(x\)で片持ち梁を切断し,その左側の局所系の力のモーメントのつりあい式を反時計回りを正2として求めると, \begin{equation} \textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm A}}x+\textcolor{#0070C0}{M_{\mathrm A}}+\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}=0 \end{equation} となります.よって, \begin{equation} \textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}=-\textcolor{#0070C0}{M_{\mathrm A}}-\textcolor{#0070C0}{R_{\mathrm A}}x \end{equation} のように\(\textcolor{#0070C0}{M_{\mathrm A}}\)には負号が付きます(図9-4).せん断力図の長方形の面積は\(=-\textcolor{#FF0000}{P}L\)なので,点Aから点Bまで進む間に\(=-\textcolor{#FF0000}{P}L\)上がる,と分かります.結果,点Bではゼロ・エンドとなり条件と一致します.せん断力\(\textcolor{#0070C0}{V\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)は0次関数でしたので,曲げモーメント\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)は1次関数となります(図9-5).
平面保持仮定(\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}=EI\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\))より,曲げモーメントと曲率は同じグラフとなります.曲率を積分してたわみ角を求めます.今回,境界条件に\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{0}\right)}=0\)が与えられていますので,ゼロ・スタートとなります.また,B点において\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{L}\right)}=0\),つまり\(\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{L}\right)}=0\)となっていますので,\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{L}\right)}\)は極値を取ります(図9-6).曲率\(\textcolor{#0070C0}{\phi\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)のグラフの面積は曲げモーメント\(\textcolor{#0070C0}{M\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)のグラフの面積を\(EI\)で割ったものになりますので, \begin{equation} \frac{1}{2}\times\left(-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L}{EI}\right)\times L=-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{2EI} \end{equation} が面積となります(図9-7).以上の情報を総合すれば,2次曲線であるたわみ角\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)のグラフを描画できます(図9-8).
最後にたわみ\(\textcolor{#0070C0}{v\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)のグラフを描きます.境界条件として,固定端のA点においてたわみ\(\textcolor{#0070C0}{v\left(\textcolor{#000000}{0}\right)}=0\)が与えられています.よって,ゼロ・スタートが成り立ちます.さらに,たわみ角\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{0}\right)}=0\)より,点Aで極値となります(図9-9).また,たわみ角\(\textcolor{#0070C0}{\theta\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}\)のグラフの面積は, \begin{equation} \frac{2}{3}\times\left(-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{2EI}\right)\times L =-\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{3EI} \end{equation} となります(図9-10)ので,以上を総合すると図9-11のように,3次曲線であるたわみのグラフが描画できます.自由端(点B)のたわみを求めますと \begin{equation} \textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm B}}=-\textcolor{#0070C0}{v\left(\textcolor{#000000}{x}\right)}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{3EI} \end{equation} となります.
単純梁・片持ち梁の各点に生じるたわみとたわみ角を覚えておけば,少し変化したくらいの問題は簡単に解くことができるようになります.例題を見てみましょう.
例題3 |
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長さ\(L\),ヤング率\(E\),断面二次モーメント\(I\)の均質な片持ち梁がある.図10のように集中荷重\(\textcolor{#FF0000}{P}\)が作用する時,点\(\mathrm{B}\)におけるたわみ\(\textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm{B}}}\)を求めよ. |
例題2で求めた片持ち梁のたわみとたわみ角を公式として覚えていれば,梁の長さが\(L\)から\(\frac{L}{2}\)に変わっただけだと分かります.よって, \begin{eqnarray} \textcolor{#FF0000}{\delta_{\mathrm C}}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}\left(\frac{L}{2}\right)^3}{3EI}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{24EI} \\ \textcolor{#FF0000}{\theta_{\mathrm C}}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}\left(\frac{L}{2}\right)^2}{2EI}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{8EI} \end{eqnarray} がすぐに計算できます.すると,点Bのたわみも次式によって求められます. \begin{equation} \textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm B}}=\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{24EI}+\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^2}{8EI}\times\frac{L}{2}=\frac{5}{48}\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{EI} \end{equation}
ここで,さらに重ね合わせの原理(superposition principle)によって,もっと複雑な問題も一瞬で解くことができるようになります.例題を見てみましょう.
例題4 |
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長さ\(L\),ヤング率\(E\),断面二次モーメント\(I\)の均質な片持ち梁がある.図10のように自由端と床の間にバネ\(k\)を加え,集中荷重\(\textcolor{#FF0000}{P}\)を作用させた時,点\(\mathrm{B}\)におけるたわみ\(\textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm{B}}}\)を求めよ. |
バネに生じる復元力は上向きで\(F=k\textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm B}}\)となります.求めるたわみ\(\textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm B}}\)は,荷重\(\textcolor{#FF0000}{P}\)が生じる点Bのたわみ\(\delta_B^{(1)}\)と,復元力\(F\)が生じる点Bのたわみ\(\delta_B^{(2)}\)の和となります.たわみ\(\delta_B^{(1)}\)については先の例題と同じ問題になりますので, \begin{equation} \delta_B^{(1)}=\frac{5}{48}\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{EI} \end{equation} です.\(\delta_B^{(2)}\)は片持ち梁の基本形で荷重が\(F\)になるだけですので, \begin{equation} \delta_B^{(2)}=\frac{1}{3}\frac{FL^3}{EI} \end{equation} です.和を求めると, \begin{eqnarray} \textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm B}}&=&\delta_B^{(1)}+\delta_B^{(2)} \nonumber \\ &=&\frac{5}{48}\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{EI}+\frac{1}{3}\frac{FL^3}{EI} \nonumber \\ &=&\frac{5}{48}\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{EI}+\frac{1}{3}\frac{k\textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm B}}L^3}{EI} \end{eqnarray} という関係式が求められます.これを解くと, \begin{equation} \textcolor{#0070C0}{\delta_{\mathrm B}}=\frac{5}{16}\frac{\textcolor{#FF0000}{P}L^3}{3EI-kL^3} \end{equation} と求めることが出来ます.
このように有名な問題を利用した解き方は,複雑な問題を素早く正確に解く上で必須のテクニックとなります.例題4のような問題を,最初から外力分布図の4階積分で解こうとするとかなり苦労するだろうということが容易にわかります.必ず,有名な問題については暗記するようにしましょう.