圧電体を用いた平板・円筒殻制振


 円筒殻は,殻構造要素として基本的な構造であり,多くの機械や構造物に適用されている.しかし,例えば配管を流体が通る際などに発生する振動は不快な音を撒き散らす場合があり,人の活動範囲に近い場合には相当の配慮が必要となる.また,連続的に発生する微小振動は,機械系の不調を引き起こす原因にもなり得る.このように,円筒殻に発生する振動は,疲労破壊に対する強度設計や騒音低減といった点から対処が必要な場合が少なくない.
 このような問題の対処法としては,振動吸収材を巻く,防振台の上に隔離する,なるべく人から遠ざける,などの方法が一般的であるが,本質的な解決にはなっていない.一方,高度な制御理論やハードウェアによるシステムをこれらの制振に適用することも考えられるが,実際には採算が合わず見送られる場合が多い.そこで本研究では,取り付けが簡単で実用的な制振システムを構築することを目的とし,その基礎的な研究として薄肉円筒殻を対象とした実験および解析を実施した.その際に,逆位相の振動を発生させることで円筒殻の低次モードの振動を抑制する,簡単な制振方法を採用した.制振デバイスとしては,その柔軟性や高い反応性から近年注目されている,圧電フィルムを使用した.
 一種の高分子材料である圧電フィルムは,円筒殻のような曲面構造物に適した制振デバイスとして注目されている.圧電フィルムを用いた薄肉構造物の制振に関する研究例は数多くあり,その適用例は多岐にわたるが,本研究では,センサおよびアクチュエータとして機能する1組の圧電フィルムを薄肉円筒殻の外側の曲面に沿って貼付し,単純な制御回路により効率良く振動を抑制するシステムを開発し,検討を行った.また,有限要素解析により最も制振効率が高い圧電フィルムの長さを導出し,実験と比較・検討した.制振効果の評価方法としては,局所的な変位計測により系全体の振動挙動を推測する方法が一般的であるが,本研究では,センサ出力電圧の推移を観察する局所的な評価方法と合わせ,微小振動の計測が2次元的に可能なレーザ・ホログラフィ干渉装置を使用し,曲面全体に渡る振動挙動を観察する評価方法により,制振効果を検証した.



圧電フィルムを貼付した薄肉円筒殻



レーザ・ホログラフィ装置の概要



(a) 制振なし     (b) 制振あり
圧電フィルムによる薄肉円筒殻の制振
(圧電フィルムを円周長さの80%に貼付)

片持ち状態の薄肉円筒殻に対する制振実験を行い,センサ出力電圧の推移やレーザホログラフィ干渉装置により制振効果を評価したところ,円周長さの80%程度の長さの圧電フィルムをセンサおよびアクチュエータとして貼付すると,50%程度の最大制振効果が得られることが判明した.これは,事前に有限要素解析から導出された結果とも一致した.このように,振動の発生点が特定できないような場合には,適切な長さの圧電フィルムを周方向に貼付することで,ある程度の制振効果が簡単に得られることが分かった.

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関連文献(Journals):

磯部大吾郎, 工藤 篤博: 圧電フィルムを用いた薄肉円筒殻の制振(センサ/アクチュエータとしての最適長さの導出および評価), 日本機械学会論文集 (C編), 第68巻, 第673号, (2002), pp.2665-2672. DOI: 10.1299/kikaic.68.2665

関連文献(Proceedings):

佐藤 勉, 小河原 崇博, 山海 嘉之, 磯部大吾郎: 分散化圧電アクチュエータ制御システムの構築と人工心臓分野における基礎実験, 計算工学講演会論文集, 第4巻, 第2号, (1999), pp.921-924.

小河原 崇博,磯部大吾郎,工藤 篤博: 平板制振における圧電フィルム貼付位置の解析的評価, 計算工学講演会論文集, 第5巻, 第2号, (2000), pp.583-586. abstract

工藤 篤博,磯部大吾郎: 圧電フィルムを用いた薄肉円筒殻の制振とその評価, 計算工学講演会論文集, 第6巻, 第2号, (2001), pp.707-710. abstract

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