熱変形補正を重視した宇宙用大型展開アンテナのデザインに関する基礎的検討

A Basic Study on a Design for Space-Use Large Deployable Reflector Focused on Thermal Deformation Compensation

Abstract


 宇宙構造物が抱える問題の一つに,著しい温度変化が挙げられる.特に宇宙構造物が大型になるほど,温度変化よる部材の微小変形が大きな問題となる.技術試験衛星VIII型(以下ETS- VIII)において,衛星が地球の陰に入った際に,搭載している大型展開アンテナからの通信ビームが地球上で約60100 [km] 移動した.この現象は,大型展開アンテナの熱変形によると考えられているETS- VIIIの場合は,ビームが広域な形状のためミッション遂行には問題はなかった.しかし,将来の通信衛星では,高い指向精度を追及していくことが想定される.そのため,衛星搭載用アンテナに生じる熱変形を制御・抑制する手法を考案する必要があるが,その知見は極めて少ない.そこで,先行研究では,大型展開アンテナを構成する14モジュールのうちの1つを参考にして数値モデル化し,熱変形時の変位発生メカニズムを明らかにした.また,14モジュールの解析モデルを作成して,複数の手法を組み合わせた熱変形補正解析を行った.その結果,大型展開アンテナの熱変形が要因と考えられる通信ビームの地上移動距離を,熱変形補正前の10分の1に相当する510 [km] 程度に抑制できる見込みを得た.特に,大型展開アンテナの展開・収納に寄与する制動ワイヤおよび圧縮バネ1要素で模擬し,アンテナの骨組がこの要素の両端から受ける力を変化させる,バネ力調整による熱変形補正を試みたところ,大型展開アンテナの構成部材の1つである斜部材のヒンジ位置や剛性が最も補正率に影響を与える可能性が高いことが示唆された.効率的な熱変形補正を行うためには,斜部材の設計や,CFRP部材とチタン合金接合部の長さの比から算出される合成線膨張係数をどのように改良するかなど,熱変形しにくい,または熱変形を補正しやすくするような工夫を検討できる余地がある.本研究では,熱変形補正の観点に基づく宇宙用モジュール型展開アンテナの構造デザインの提案を目指し,設計内力,熱特性,動作機構の相互関係から,熱変形補正を重視した構造デザイン考案のための基礎的な検討を行うことを目的とする.本稿では,斜部材を先行研究からさらに詳細にモデル化した1モジュールの解析モデルを作成し,設計内力が生じた展開完了時の動作機構と熱変形補正効果との関係を検証する.熱変形解析には,Bernoulli-Eulerはり要素を用いた弾性有限要素法を用いる.


Space structures need to overcome various severe issues in space. One of these issues is to consider measures for severe thermal conditions. When the Engineering Test Satellite -VIII (ETS-VIII) entered the Earth’s shadow, the temperature of the large deployable reflector (LDR) mounted on the ETS-VIII decreased rapidly for about 200 ºC. During this eclipse time, a communication beam direction from the LDR was observed to change. The length of this transition was a range of 60- to 100-km on the surface of the earth. In this study, we carried out a basic study on a design for large space structure focused on thermal deformation compensation. We investigated the relation between the shape of a diagonal member after completion of an antenna deployment and the thermal deformation compensation.


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