宇宙ステーションの高速デブリ衝突解析


 近年の宇宙開発の一大プロジェクトである国際宇宙ステーション(ISS) の建設もすでに秒読み段階に入っており,今後さらに宇宙開発が進むことが予想 される. また一方で,地球の衛星軌道上にはすでに多数の人工衛星が打ち上げられており, 使い古された人工衛星や隕石などの宇宙のゴミ・デブリが多数浮遊している. 宇宙構造物の開発段階において,宇宙空間という特殊な環境での構造物の挙動を知るためにはコンピュータによる数値解析が主流となるが, 特に宇宙ステーションのような大規模構造物はデブリとの衝突の可能性も十分に 考えられ,4[km/sec]から10[km/sec]ともいわれる超高速度の衝突に対する宇宙構造物の安全設計が必要不可欠となる. よって,デブリが高速衝突した際の宇宙構造物の挙動をあらかじめシミュレートすることはとても重要な課題であり,また,より正確な挙動を知るためにも,部材の破断まで考慮したデブリ衝突解析を行うことが望ましくなる.
 一方,破断を伴う構造物の解析手法としては,個別要素法(DEM)や不連続変形法(DDA)などが存在するが,このような強非線形性・不連続性を伴う問題を有限要素法を用いて解析するには非常に複雑なプロセスが必要となり,その解析例は稀少である.
 そこで本研究では,骨組構造の有限要素崩壊解析において,線形解・非線形解ともに高精度の収束解が得られる順応型 Shifted Integration法(ASI法)を 宇宙骨組構造のデブリ衝突解析に適用した. ASI法は,応力・塑性ヒンジ形成位置が陽に与えられている物理モデルである 剛体・ばねモデルと有限要素とのひずみエネルギ近似の等価条件を考慮することにより得られる関係から,弾性要素における数値積分点は線形解析に対する最適位置に置き,全塑性断面発生直後にその点に正確に塑性ヒンジを形成するように数値積分点をシフトする手法である. この手法を用いることにより,変位型有限要素法を用いて最小限の要素数で精度の高い解析が可能となる. さらに,塑性ヒンジを発生させると同時に要素の断面力を解放することにより容易に破断を表現することができる.
 また,破断した要素が他の要素に再衝突した際の衝撃力が無視できないことが考えられるため,本研究では,よりリアルな崩壊挙動をシミュレートすることを目的とし,節点の位置関係により部材間接触を判定するアルゴリズムを構築し有限要素解析プログラムに導入した.



国際宇宙ステーション(ISS)の解析モデル



国際宇宙ステーション(ISS)のデブリ衝突解析

デブリの衝突直後,衝突部付近の部材が一瞬にして吹き飛び,その後広範囲に渡って変形が生じている.また,吹き飛んだ部材が太陽電池パネルに衝突し,被害をもたらしている様子も確認できる.解析結果から,質量10[kg],速度5[km/s]のデブリの持つエネルギは相当なものであり,構造物に致命的な破壊を及ぼす危険性があることが想像できる.

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関連文献(Journals):

都井 裕, 磯部大吾郎: 骨組構造の有限要素崩壊解析における順応型 Shifted Integration 法, 日本造船学会論文集, 第171号, (1992), pp.309-317. DOI: 10.2534/jjasnaoe1968.1992.309

Y. Toi and D. Isobe: Adaptively Shifted Integration Technique for Finite Element Collapse Analysis of Framed Structures, International Journal for Numerical Methods in Engineering, Vol.36, (1993), pp.2323-2339. DOI: 10.1002/nme.1620361402

都井 裕, 磯部大吾郎: 順応型 Shifted Integration 法による骨組構造の座屈崩壊挙動の有限要素解析, 日本造船学会論文集, 第174号, (1993), pp.469-477. DOI: 10.2534/jjasnaoe1968.1993.174_469

都井 裕, 磯部大吾郎: 順応型 Shifted Integration 法による骨組構造の動的崩壊挙動の有限要素解析, 日本造船学会論文集, 第175号, (1994), pp.299-306. DOI: 10.2534/jjasnaoe1968.1994.299

Y. Toi and D. Isobe: Finite Element Analysis of Quasi-Static and Dynamic Collapse Behaviors of Framed Structures by the Adaptively Shifted Integration Technique, Computers and Structures, Vol.58, No.5, (1996), pp.947-955. DOI: 10.1016/0045-7949(95)00195-M

磯部大吾郎, 都井 裕: 順応型 Shifted Integration 法による脆性骨組構造体の動的崩壊挙動の有限要素解析, 日本造船学会論文集, 第180号, (1996), pp.471-478. DOI: 10.2534/jjasnaoe1968.1996.180_471

磯部大吾郎, 森下 真臣: ASI有限要素法による大規模宇宙骨組構造のデブリ衝突解析, 日本機械学会論文集 (A編), 第64巻, 第627号, (1998), pp.2726-2733. DOI: 10.1299/kikaia.64.2726

関連文献(Proceedings):

磯部大吾郎, 森下 真臣: ASI有限要素法による宇宙骨組構造の高速デブリ衝突解析, 計算工学講演会論文集, 第3巻, 第3号, (1998), pp.773-776. abstract

D.Isobe and M.Morishita: Impact Analysis of Space Structure due to Collision with Hypervelocity Space Debris by Using ASI-FEM, Proceedings of the International Conference on Computational Engineering Science 1998 -Modeling and Simulation Based Engineering-, Vol.2, (1998), pp.1114-1119, Atlanta, USA. abstract

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