大型宇宙構造物の変形・振動抑制


 宇宙を飛行する人工衛星は宇宙特有の様々な環境に遭遇する.そのような宇宙特有の環境のひとつに,日照時と日陰時の激しい温度変化がある.人工衛星に太陽光が当たる日照時と,地球の陰で太陽光が当たらなくなる日陰時とでは,その温度差は約200 Kにも達する.人工衛星の内部搭載機器はラジエータやヒータ等によって適切な温度範囲内に制御されているが,通信アンテナ等の外部搭載機器は,この温度変化によって熱変形が発生する.
 近年の宇宙開発では様々な大型宇宙構造物が登場してきている.技術試験衛星型(ETS-: Engineering Test Satellite - に搭載した大型展開アンテナLDR : Large Deployable Reflectorsもその一例であり,そのサイズはテニスコートに匹敵する大きさである.このような大型宇宙構造物は,そのサイズが大きいがゆえに,温度変化に伴う熱変形の影響が顕著に現れやすい.実際にETS-Ⅷでは,通信実験を行う上では問題のないレベルではあるものの,大型展開アンテナの鏡面の熱変形によると思われる通信ビームの特性変動が観測されている.今後の通信衛星では,高速・大容量でピンポイントの通信ビームによる通信を行うことが想定されるため,衛星搭載用アンテナの温度変化による熱変形を制御・抑制する必要がある.

 

ETS-概要



アンテナ表面上温度の推移                                 信号レベルの推移

信号照射位置の移動                    移動の要因

一連の解析結果から,
①構造物全体の熱変形を抑制するために,構成部材の線膨張係数を必ずしも「ゼロ」にする必要はない.

②適切な線膨張係数を持った部材同士を組合せることで,構造物全体としての熱変形を抑制できる.
③線膨張係数の制御は,金属部品の長さを変更することで比較的容易に対応可能である.
ということが分かった.
 将来の通信衛星でも,アンテナ口径の拡大のためにETS-Ⅷの大型展開アンテナと同様の方式のアンテナが搭載されることが予想されるが,各部材の線膨張係数を適切な組合せとする手法と考え方は,同様の展開方式のアンテナのみならず,様々な大型宇宙構造物に対しても適用でき,応用範囲が広いものと考えられる.

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関連文献(Journals):

磯部大吾郎, 森下 真臣: ASI有限要素法による大規模宇宙骨組構造のデブリ衝突解析, 日本機械学会論文集 (A編), 第64巻, 第627号, (1998), pp.2726-2733. DOI: 10.1299/kikaia.64.2726

臼井 基文, 脇田 和紀, 近藤 健介, レ ティ タイ タン, 松井 康将, 磯部 大吾郎: 宇宙用大型展開アンテナの熱変形抑制手法について, 日本機械学会論文集C編, Vol. 77, No. 777, (2011), pp.2107-2119. DOI: 10.1299/kikaic.77.2107

関連文献(Proceedings):

D. Isobe and M. Morishita: Impact Analysis of Space Structure due to Collision with Hypervelocity Space Debris by Using ASI-FEM, Proceedings of the International Conference on Computational Engineering Science (ICCES'98) -Modeling and Simulation Based Engineering-, Vol.2, (1998), pp.1114-1119, Atlanta, USA. abstract

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