過激すぎて(^^;とても公開できなかったT大ピアノの会の会誌「桃源」の原稿ですが,震災後の対処法など有益?な情報も沢山含まれていると思うので,思い切って公開することにしました.ただ,いくらなんでもまずいところは割愛しました.逆に一部加筆したところもあります.「桃源」では入れられなかった(入れられたのかな?)写真も入れてみました.でも実は割愛したところに本音とか有用な情報が入っているのですが,まあしょうがないですね(まさに「割愛(惜しく思うものを思いきって手放したり省略したりするこ(広辞苑))」ですね(^^;).
-----------------ここから------------------
今回は「音楽以外の話もしよう」という特集で,専門?の最近頻発する地震についてということで原稿の依頼がありました.それにしても地震が多いですねー.筑波大に来てまだ2年半ですが,その間に,2003年宮城県沖,2003年宮城県北部,2003年十勝沖,2004年新潟県中越,2005年福岡県西方沖,そして2005年宮城県沖と6回も被害調査に行くことになってしまいました.30周年記念誌の時も書いたのですが,私は普段非常に筆まめでして(自分で言うのも何だが)毎日大量のメールをいろんな人に書いたり,ブログのようなページをもっていて(「人生や世の中など」でググればヒットします),ほとんど毎日更新しているので(^^;,この文章もとても長く,かつ,顔文字が頻繁に現れるメールやブログのような文章になることをどうぞお許しくださいm(_ _)m.
地震の話をする前に簡単に私が今何の仕事をしているかを紹介しておいた方がいいですかね?今のところ地震防災を対象とした研究者というものをしています.職業で言うと筑波大学の教員です.筑波大の前は東大地震研というところにいました.最近は地震が多いせいかちょくちょくテレビや新聞に引っぱり出されるようになってしまって***割愛***,でも「あー,こんな奴おったな,今こんなことしてんだ」と気づいてくださった方がいらっしゃったらそれはちょっと嬉しいことです.
一言で(ちょっと格好良く(^^;)言うと「地震による構造物被害に伴う人命の損失を減らすための研究」をしています.地震被害が起きるたびに被害調査に出かけていて(現場第一主義なので),被害速報を現地からホームページで公開したりしています.ホームページは,大分広く認知されるようになってきて新潟県中越地震のときは1週間で2万アクセスありました.最近は,地震が起こると直後からカウンタが急増して早く被害調査に行ってこいとせっつかれている(^^;ような感じです.その他には,実際の被害と対応しない現在の震度の問題点を指摘し,被害と対応する震度算定法を提案して***割愛***,鉄筋コンクリート造建物を対象とした世界最小の超縮小モデルというものを開発してそれを使った振動実験などをしております.もしよろしければ,研究室のホームページ(http://www.kz.tsukuba.ac.jp/~sakai/jsd.htm←かちゃかちゃURLを入れるより「境有紀」でググった方が早いです(^^;.GooやGoogleだとちゃんとトップページが先頭に来るのですが,どういうわけかYahooでは変なページが先頭に来てしまいます)をご覧いただければ幸いです.
さて,本題の最近多発する地震について,どう考えるべきか,どうしたらいいのか,ということですが,この手の話題については,いろんなところで話していますし,研究室のホームページの中でもいろいろ書いています(例えば,阪神・淡路大震災から10年 地震災害の3つの特質と問題点 http://www.kz.tsukuba.ac.jp/~sakai/jss.htm).でも一応専門家?としては,公衆の面前やテレビカメラの前や誰もが見ることができるホームページでは本音のところは言えない(書けない)のも事実ですので,ここでは本音のようなことをばんばん(^^;書きたいと思います.
地震災害という災害は,実はかなり特殊で「厄介」なものです.なにが厄介かというと「滅多に来ない」ということです.滅多に来ないとどうなるかというと,滅多に来ないから対策も進まない→大地震が来れば甚大な被害が生じる,の悪循環です.最近は地震が多いのは確かですがほんとに大きな被害地震と言えるのは1995年兵庫県南部地震くらいです.その前だと1948年の福井地震まで遡ります.しかし,70年周期説的に言えば活動期に入ったとも言われていて,実際1940年代は,わずか10年間に1000人以上の死者を出した地震が5回(鳥取,東南海,三河,南海,福井)も起こっています(1940+70±10=....).M(マグニチュード)8クラスの東海,東南海,南海はかなり世間を騒がせていますが,M7クラスの直下地震は日本のどこでいつ起こってもおかしくありません.そして,1995年兵庫県南部地震はまさにそういう地震でした.
じゃあどうすればいいかですが,***割愛***,現在の耐震規定を満たしていないいわゆる「既存不適格建物」を耐震補強してください,そのためにまず耐震診断(既存の建物の耐震性能を定量的に調べること)をしてください.自治体によっては只で行ってくれるところもありますよ,ということになっています.実際,私は日本だけでもう十数回地震被害調査に行きましたが,大きな被害を受けた建物のほとんどはそういう既存不適格建物でした.甚大な被害だった1995年兵庫県南部地震ですらそうです.2004年新潟県中越地震で震度7を記録した川口町というところでは20%の家屋が全壊しましたが,そのほとんどがいわゆる既存不適格建物でした.ですからあまり大きな声では言えませんが,1995年兵庫県南部地震や2004年新潟県中越地震では確かに大きな被害が生じた反面,現在の日本の耐震技術のレベルの高さが証明されたと言われています.実際,世界的に見ても日本の耐震技術の高さはダントツで,現在の日本の耐震規定を満たすように,現在の日本の(ちゃんとした)ハウスメーカーやゼネコンの建築技術,補強技術をもって施工すれば,震度7クラス(正確には震度7は青天井なので震度7の下限の計測震度6.5程度)の地震が来ても大きな被害を受けることはまずありません.
でもどうですか?地震が怖いから我が家も耐震診断してもらって耐震性能が充分じゃなかったら耐震補強工事してもらおうかな?とか思います?***割愛***.耐震補強にかかる費用はもちろんいろいろですが,普通の木造家屋だとだいたい100〜200万くらいです.つまり車1台分くらいですね.みんな車は何年おきかに買い換えますが,自宅を耐震補強しようとは思いません.それはやっぱり大地震なんかほんとに来るかどうかわからないし,いつ来るともわからない地震に対して100〜200万もかけて結局,家屋の耐用年限(だいたい30年くらいだが50年くらいはみんな平気で住んでる.それはそれで問題ですが.)が来るまで地震が来なかったら無駄?なお金ということになります.
でも耐震補強が進まない一番の原因は,費用対効果が明確でないからではないでしょうか?「念のために耐震補強」するのではなく,「耐震補強した方が得」なら耐震補強しますよね.実は今年の卒論生の1人にどういう場合に耐震補強したら得か,どういう場合はしない方が得か(^^;などの費用対効果についてちゃんと被害と対応した震度を使って検討してもらっています.耐震補強を進めるには,「耐震補強した方が得」かどうかというちゃんとしたデータを示すのが一番だと思っているからです.ぼちぼち結果が出始めていますが,かなり興味深い結果になりそうです.家屋の老朽化による耐震性能の低下がポイントのようです.結果が出たらホームページで公開しようと思っています.
ということで耐震補強が進まない現状で,本音的(^^;にどうすればいいかですが,私はとりあえず命を確保することかなと思っています.直観的バランスからいっても,生きてるうちに一度来るか来ないかというくらいの確率の事象なので,そういうことになりますよね.自宅を所有している場合は,財産を失うというリスクもありますが,これは例えば地震保険などでまかなうこともできます.自宅を所有していない場合はとにかくとりあえず生きのびることだけを考えるということになります.***割愛***.それに私は命が惜しいとはあまり思わないのですが,さすがに職業柄,地震で建物の下敷きになって死ぬわけには行きません(^^;.では人は地震でどういう建物の下敷きになって死ぬかというと,やはりほとんどは古いいわゆる既存不適格の木造家屋です.それは木造家屋は倒壊すると「生存空間」がほとんど残らないことが多いからです.***割愛***.しかも潰れるのは多くが1階です.ですから,もし寝室が木造家屋の1階なら2階にすることをお勧めします(もちろん2階が潰れることもたまにはあるので確率の問題ですが).木造アパートなら2階の部屋にしましょう.


もし鉄筋コンクリート造や鉄骨造なら大きな被害を受けても命を落とす確率は低いと考えていいです(もちろんこれも確率の問題で0ではないし,直下でM8クラスの地震が起こったり,糸魚川−静岡構造線なんかが動いたらとんでもないことになります).自宅がマンションの場合,あるいは,外で働いている人が昼間会社などの勤め先にいる場合は,だいたい鉄筋コンクリート造か鉄骨造建物だと思います.そういう建物はどういう風に壊れるかですが,最悪の場合,ある1つの階が潰れます.複数の階が潰れることはまずありません(上の括弧内に同じ).損傷は一旦生じ始めたところに集中するからです.しかし,潰れた階には生存空間が残るケースが多いです.1995年兵庫県南部地震では例えば三宮のオフィスビルの多くが1つの階が潰れるいわゆる層崩壊をしましたが↓,完全にぺしゃんこになったものはほとんどありませんでした.



日本ではないですが,私は被害調査でそういう層崩壊した建物の潰れた階に潜り込んだ経験がありますが(今にして思えば,よく潜り込んだもんだと思います(^^;),柱は完全に潰れているのにだいたい高さ1mくらいの空間が残っていました↓.実は地震が起こった時そこに座ってくつろいでいた人がいて,その人は地震だ!と思ったら天井がゆっくり降りてきて,あー,つぶされて死ぬー,と思ったら天井は頭の上のところで止まって,その後,這い出して無事脱出したそうです.
外から見た潰れた2階の柱↓

なんでそうなるのかというと,ちょっと専門的になりますが,多くの建物の窓などの開口部の梁(外梁)の上下に腰壁,垂壁という部材が付いているためで,柱が潰れても腰壁,垂壁が潰れることはまずないので,だいたい高さ1mくらいは空間が残るのです.もっと極端な話,腰壁垂壁が付いていない建物内部の梁(内梁)も上下方向に潰れることはまずありえないので,万が一腰壁垂壁が効かなくても梁せい−スラブ厚分の空間(高さ数十cm)は残ることになります.人間横になってみればわかりますが,高さ数十cmでも充分生存できます.逆に言うと地震だ!と思って上を見て梁があったら,即座に横に移動しましょう.ただ,いろんなものが吹っ飛んでくる可能性もあるので,そういうものから如何に身を守るかですね.グランドピアノなんか結構怖いです.地震力は慣性力なので,ということは,重い軽いにかかわらず同じ加速度が働くということで,つまり,重ければ重いほど運動エネルギーも運動量も大きいということです.窓際ならガラスが割れて飛んでくるかもしれません.
1つの特定の階が潰れるということは,どういうことかと言うと,建物全体がひっくり返らない限り他の階は安全ということです.海外では時々ありますが,日本の建物で建物全体がひっくり返ることはほとんどありません.地盤の液状化で建物がひっくり返った写真を見たことがある人もいると思いますが,液状化で人が死ぬことはまずありません.液状化が起こると建物全体がそのままひっくり返ることがたまにありますが,そういう時も,ひっくり返るときはゆっくりゆっくり傾いて行きます.1964年新潟地震の時,液状化でひっくり返った団地↓の中にいたおばさんが,最初床に座っていたが,だんだん建物が傾いてきて,気がついたら壁に座っていた(^^;んだそうです.

ですから特定の階が潰れたとしても例えば,7階建てなら6/7は大丈夫ということです.そして1/7も生存空間は残ることが多いです.よく1階が駐車場でピロティーになっている建物があって,その階は壁がなく剛性が低くて潰れるとしたら必ずそこが潰れる↓のでよくない,と言われていますが,そこは人は住んでいないことが多いので,生命の確保という点では理想的?とも言えます.損傷は一旦生じ始めたところに集中するので,わざとある階を壊してそこでエネルギー吸収をするという設計コンセプトもあります.逆に言うと1階がピロティーになっていて,かつ,そこに人も住んでいたら最悪です.実際,1994年ノースリッジ地震(ロサンゼルス郊外の地震)では,亡くなった人の半数はそういう1階ピロティーに住んでいた人達でした.


1階がピロティーでない場合はどの階が潰れるかですが,1995年兵庫県南部地震のように中間階が潰れる場合もあります.それはどういう場合かというと「剛性が変化する階」です.具体的には,下の階までは柱の太さが80cm×80cmだけど,その階から70cm×70cmになっている,という場合です.中高層建物は必ず下の階から上の階に行くに従って柱が細くなっていきます.上に行くに従って軸力も地震力も減るからです(地震力はその階以上の重量に作用します).そして,柱の太さは上の階に行くに従ってだんだん減るのではなく(そんなことしたら施工が大変(^^;),何階かおきに10cmとか5cmとかいうオーダーでがくんがくんと減らします.またSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)と言って,鉄骨が鉄筋コンクリートの中に入っている建物がありますが,鉄骨が下の階から途中の階までしか入っていない場合もあるので,そういう場合も鉄骨が入っている階のすぐ上の階が潰れる可能性が高いです.あとはセットバックと言って,下の階より部屋数が減る場合もそうですね.
もし集合住宅に住むのでしたら鉄筋コンクリート造,鉄骨造で4,5階以下の低層のものがお勧めです.実はいわゆる「団地」の建物はおそらく一番安全です.上述したように地震力は慣性力で質量に比例した力がかかるので,全体の質量が小さい(低層)ことが重要です.またちょっと専門的になってしまいますが,建物には必ず雑壁(設計に考慮されない壁)などによる余剰耐力(耐力=強さ)というのがあり,当然余剰耐力は質量が小さいほど「効いて」来ます.従って,低層建物は設計で想定する何倍もの耐力をもっています.逆に言えば,高層,超高層建物は現代技術の粋を集めた設計がなされていて理論的な安全率も高く設定されていますが,余剰耐力はほとんどないと考えていいです.あとは,平面形(上から見た形),立面形(横から見た形)は整形(シンプル)なほどいいです.平面形は円が理想ですが,まあ正方形とか長方形なら大丈夫でしょう.L字型とかエレベーターホールが端にあるような剛心が中心にないものは捻れ振動を起こします.立面形も長方形がベストです.上述のセットバックも立面が不整形な例です.要はデザインが格好いい(^^;ものはそれだけ耐震性を犠牲にしているということです.でもまあどこかの階が潰れたとしても生存空間は何とか残ることが多いのは上述した通りです.
鉄筋コンクリート造,鉄骨造,鉄骨鉄筋コンクリート造の集合住宅であれば,命を落とす可能性は古い木造住宅よりは低いと言えますが,建物が被害を受けて何とか生きのびたとしてもその後がかなり厄介です.もし大きな被害を受けて立て替える必要があっても全住民の3/4以上の同意が必要になるので,お金がないとか言って駄々をこねる?人が必ず出てきてなかなかうまく行きません.1995年兵庫県南部地震で被害を受けたマンションでいまだにもめてるところ(つまり被害を受けたまま)もあります.***割愛***.
でもそういうことを差し引いても自宅を所有したい,という願望はあるでしょうから(そういう願望は日本人特有のものだという説もあるようですが),まあテレビや冷蔵庫のように耐久消費財として買うということですかね.間違っても資産運用目的に買ってはいけません.最近ほんと大学によくそういう勧誘の電話がかかってきます.ということは儲かるのは電話を受ける方ではなく,かけてくる方ということですから,そういう勧誘には絶対乗ってはいけないということです.話を戻すと,大地震で壊れてしまえば,地震でテレビが棚から落下して壊れるのと同じように(^^;家やマンションも使えなくなるということです.一軒家であれば,家は潰れても土地は残るので更地にすれば極端な話テントを張って住むこともできます.全壊(と自治体が認定)すれば取り壊して更地にするだけに必要な額くらいを国や自治体が出してくれるシステムになっていますが,都心で何十万棟という家屋が全壊すれば(ちなみに1995年兵庫県南部地震による全半壊家屋は20万戸以上)明らかに財政破綻でしょうねー.
実は地震が怖い人はテントに住むのが一番安全です.「地震は人を殺さない.地震によって壊れる建物が人を殺す」という名言があるのですが,まさにその通りです.震度7のものすごい揺れに遭遇したとしても,もし運動場の真ん中のような周りになにもないところにいれば,まあ立っているのは難しいでしょうが,しゃがんで数十秒やり過ごせばどってことはありません.しかし,既存不適格建物の中にいれば,普段は雨露をしのいでくれる建物が一転凶器と化します.建物を充分に耐震的にできる建設技術があるのに,それを放置していることは地震が悪いというよりは,そこに住んでいる人の責任とも言えます.つまり,大地震というと自然の猛威には勝てない,とか言う人がいますけど,それは大きな間違いで,地震災害は自然災害と言うよりは人災なのです.何かあったら国がなんとかしてくれるという時代ではありません.今流行?の言葉で言うと自己責任ですね(^^;.実際,トルコでは地震で大きな被害を受けたら国が全額補助をしてくれるので,みんなわざと耐震補強などをせず地震が来るのを待って?いて,そうするとどうなるかというと,大した地震でもないのに何万人という人が亡くなってしまうという最悪の悪循環になっています.だから皆さん耐震診断,耐震補強しましょう,となるのですが***割愛***.
ですからまあ,できることからやりましょう,ということになります.これはいろんな講演会などでも話していることで,つまり建前なのですが,本音でもあります.例えば,上で書いた木造家屋なら寝室を1階から2階にするとか,後は,本棚や箪笥が倒れてくる方向に寝ないようにベッド(布団を敷く位置)を変えるとか,そういう些細なことでも地震で命を落とす確率は格段に違ってきます.人間起きていれば何とか生き残ろうとするもので,逆に言えば寝ているときは全く無抵抗なので寝る場所の状況はとても大事です.実際,1995年兵庫県南部地震は未明に発生したため,亡くなった人の多くは,古い木造家屋の1階で寝ていた人達でした.
もし起きていたらどうしたらいいかですが,これは結構見解が分かれています.落下物や吹っ飛んでくるものから身を守るために机やテーブルの下に潜りなさい,という人もいますが,そんなことより揺れが収まった後,脱出するために出口を確保しなさい,という人もいます.でも家が潰れるかもしれないという揺れで玄関まで走る余裕がありますかね?もし閉じこめられて外に出られなくても家の中にある程度の食料はあるでしょうし,いざとなったら窓ガラスを割って外に出ることもできるわけですから,やはり身を守るのが先決という気がします.昔は火を使っていたらすぐに消しなさい,と言われていましたが,火傷などして逆に危ないし,今は都市ガスのメータにセンサが付いているので,自動的に消火されます.むしろ問題となっているのは,地震で停電してそれが復旧したときの通電による火災です.ですから避難するときはブレーカーを落としましょうとはよく言われています.
でも最優先なのはやはり命でしょうから(地震保険に入っても当然失われた命は返ってきません),万が一建物が倒壊しても空間が残りそうな「生存空間」に移動すること(例えば前述の梁下から脱出することなど)ですかね.腰壁垂壁のあるところは窓などの開口部なのでガラスの破損に気をつける必要があります.大学の研究室で私が普段座っているところは窓側で腰壁も垂壁もあるのですが,窓のすぐ横なのでブラインドを開けた状態で降ろしています.自宅であれば棚の倒れる方向などを考慮して生存空間が残りそうな所の目星をつけておく,あるいはそういう場所を確保しておくのがいいと思います.剛性の高いものは転倒しなければ上の階が落ちてくるのを支えるのは難しいですが,人1人くらいの生存空間を確保してくれることがあります.
1999年に台湾集集地震というのがあって私も被害調査に行ったのですが,完全に倒壊したマンションから何日か後に兄弟が助け出されたことがありました.彼らはなぜ生きのびたかというと隣りに冷蔵庫があってそれが生存空間をなんとか確保していたからです.しかも冷蔵庫の中には食料が入っていました(一石二鳥(^^;).そういう剛性の高い家具を利用する手もあります.箪笥だって倒れさえしなければある程度上階を支えられる可能性はあります.でも,いくら壁にがっちり固定しても家そのものが倒壊したら当然いっしょに倒れてしまいますけど.
これから家を建てる場合は,上述したように当然現在の耐震規定を満たさないといけないですから,まあ大丈夫でしょう(ただし,手抜き工事や耐震強度偽装をしなければの話です).そういう意味ではマンションもそうです.中古の物件を購入する場合でしたら,これは結構有名な話でご存じの方も多いと思いますが,1981年のいわゆる新耐震以降に完成した建物が一応現在の規定を満たしていると考えていいでしょう(正確には建築基準法は2000年に改正されたので現規定を満たすものは2000年以降).ただし直下でM8,あるいは巨大断層が動けば保証の限りではありません.実は直下でM7でも1995年兵庫県南部地震のように断層の壊れ方によっては,非常に破壊力のある地震動が発生する場合があるので,絶対安全とは言えません.まあそんなのが来たら運命だと思って潔く?諦めるというのも1つの生き方です.
最近は,免震住宅とか免震マンションがとても多く建設されるようになってきました.でも免震というと地震の揺れを「免れる」みたいですけど,建物が地面に接している限り,つまり,空中に浮かばない限りそんなことは絶対にありません.実は,免震は何をしているかというと,多くの地震動の周期帯より建物の周期を長くして共振しないようにしている,ということです.ですから,最近話題になっている長周期地震動に対してはむしろ逆効果です.もちろん,そういうことを考えてダンパーという減衰によって揺れを低減させる装置を付けていますが,免震建物だから絶対安心ということはないということです.長周期地震動が発生する平野に長周期の超高層建物や大規模構造物をわざわざ?建てるのは,平野に人が集まる→住むところがなくなって高層建物を建てる→平野では長周期地震動が発生する,という流れからすると,ある意味,最悪の巡り合わせと言えなくもありません.でも免震住宅や横に長い建物はまあいいとしても***割愛***.もちろんよく起こる短周期地震動に対してはその効果は圧倒的です.でももともと短周期地震動では大きな被害は生じません.ほんとに怖いのは,短周期地震動と長周期地震動の中間の1-2秒くらいが卓越する「やや短周期地震動」です.
大きな地震が起こって何とか生きのびたとしたら,次は,その後どうサバイブするかです.最近話題になっているのは,いわゆる「帰宅困難者」ですね.先日,東京で震度5強の地震があって交通が麻痺して大変なことになったみたいですけど,あの程度の地震であんなことになるとすると,ちゃんとした?大地震が来たらどうなるかと思うとほんと想像するだけでぞっとします.そういう時に最も威力を発揮するのは自転車です.実際,1995年兵庫県南部地震のときは,新幹線に自転車を担ぎ込んで被害調査に行きました.車は大渋滞(というかほとんど駐車場状態)で全く使いものになりません.頑張って歩いて帰りましょう,とも言われていますが,自転車があれば全然違います.自転車って誰が発明したのか知りませんが,転がり摩擦係数が小さいという物理的な性質だけで全く燃料なしに,人がただ歩くだけの時速5〜6kmを3〜4倍の時速15〜20kmにまでしてくれる大発明だと思います.ですから,できたら勤め先に1台自転車を置いておくことをお勧めします.場所がかさばるなら折りたたみ式のものもあります.
私は仕事で週2回くらいは東京に行くのですが,東京にいるとき地震が起こったらと思うと仕事が終わったらそそくさとつくばに帰りたくなってしまいます(^^;.交通が止まって60km歩くのはいくらなんでもきびしいです.でも自転車があれば何とかなるでしょう.ほんとどっかに自転車をこっそり置いておければいいんですが...もちろん東京に知り合いはたくさんいますが,地震が起こったら連絡をとるのは難しいでしょうねー.あとは,簡単な食料を常に携帯しているといいと思います.チョコレート1箱なんかでも全然違います.当然単位重量当たりのカロリーが高い甘いものがいいです.そんなに面倒なことではなく別に普段使っている鞄にぽんと入れておくだけです.何ヶ月かに一度,地震なくてよかったなと思ってぽりぽり食べて(^^;,新しいのと交換すればいいでしょう.賞味期限が長いものなら数年入れっぱなし(^^;でもOKというものもあります.
次は,なんとか自宅に辿り着いた,あるいは,自宅で被災した場合です.自宅が倒壊して住めなくなった場合はもちろん,現在の耐震規定を満たした建物や免震住宅で被害がなくても電気,ガス,水道などのライフラインが止まってしまったらそこで生活することはできません.そういうとき,威力を発揮するのは車です.車は前述のように移動手段としては使いものにならなくなりますが,簡易住宅としては威力を発揮します.冷暖房まで付いています.1995年兵庫県南部地震のときは真冬でほんと寒くて調査していても辛かったので,被災された人達はほんと大変だったと思います.ただ,新潟県中越地震のとき,車で寝泊まりしていわゆるエコノミークラス症候群で多くの人が亡くなってしまったので,寝る態勢には気をつけましょう(狭いシートに「座って」寝てはいけないということ).そういう意味ではシートを倒してフラットにできてそこに布団を敷いて寝られるようなタイプの車だといいです(少し大きめの車ならだいたい大丈夫です).そのためには,普段からガソリンをまめに(まあ半分を切ったらくらいで)補充しておくこととバッテリーですかね.バッテリーはどっちみち交換していくものなので予備を買っておくといいですね.車のシガーソケットを家庭用コンセントに変換するアダプタも用意しておくと普段使っている電化製品がそのまま使えます(私は被害調査に行くので当然もっています).
あと,書いておかないといけないことは地震予知でしょうか.これもhttp://www.kz.tsukuba.ac.jp/~sakai/Z0044.htmに書いていますが,まあ一言で言えば,たとえ地震予知ができても壊れる建物は壊れるわけですから,地震予知ができれば地震災害を免れることができるというのは大きな間違いです.地震災害の最大の被害はもちろん人命の損失もありますけど,構造物被害による経済的損失とするのがもはや一般的です.M7クラスの首都直下地震が起こると20秒で日本の1年の国家予算以上の額(112兆円)が吹っ飛ぶという試算があります.たとえ地震予知ができたとしても果たしてほんとに警戒宣言が発令できるかも大いに疑問です.新幹線を止めるなどして,でも実際には地震が来なくて(こういうのを「空振り」と言います)何千億という経済損失が生じたら損害賠償問題にもなりかねません.それに,警戒宣言が発令されたとしても皆さんどうします?解除されるまで何日も野宿しますか?屋外に避難するのでしたらせいぜい数時間が限度でしょう.そんな精度で地震予知はできませんし,異常なデータが検出→判定会の召集→警戒宣言という手続きから考えても無理です.むしろ,いわゆるP波で警戒信号を発してS波が来るまでの数十秒間でできることをするといういわゆるリアルタイム系の方が可能性はあると思います.でも新潟県中越地震で新幹線が脱線したように直下地震では間に合いません.
余談ですが,よく「直下型地震」という言葉を目にしますが,地震に「型」はありません.地震というのは地下の奥深く(だいたい数十km)で岩石が壊れる現象で,その位置,即ち,震源が陸地の下なのか(直下地震),海の下なのかというだけの話です.ただし,深さによって地殻内なのかプレート間なのかプレート内なのか,という違いは出てきます.話を地震予知に戻しましょう.
地震が起こった後,こういう現象があった(地震雲とか動物がどうとか)とか言う人が必ずいますけど,そんなのはほんと問題外です.地震予知の最大の問題は,予知して地震が起きないという「空振り」であり,地震が起こった後になってそう言えば地震発生前にこういう現象があった,という後付では使いものになりません.地震が起こる前に犬がワンワン吠えたのと,犬がワンワン吠えたら地震が起こる,というのは全く違います.犬なんか地震が来なくてもワンワン吠えるものです.地震雲(のようなもの)も普段気をつければ,いくらでも見つかるでしょう.M6クラスの地震で予知に成功と言っているのにも辟易します(だんだん口調が厳しくなってきた(^^;).地震予知は構造物の倒壊による人命の損失を免れるのが最大の目的ですから,構造物が倒壊するような規模の大地震を予知しなければ何の意味もありません.そしてそういう大地震を予知できた例はまだありません.そして前述したようにたとえ予知できたとしても倒壊する構造物は倒壊するので莫大な経済的損失は免れません.
なんかいろいろほんと好き勝手なことばかり書きました.もちろん私という人間の極めて個人的な見解であることをことわって長い文章(また随分長くなってしまいました(^^;.でも過激すぎて?30周年記念誌のときのようにホームページで公開できないのが残念です)を終わりにしたいと思います.でも私自身も専門の研究とは違って身近なこととしての地震防災対策のようなものを専門知識?を基に整理しながら書いたので自分でも勉強になりました(「建前」は沢山書いているのですが(^^;「本音」を文章という形で書いたのは初めてなので).実は「医者の不養生」という言葉があるように,建築や地震防災の専門家であっても何でそんなとこ住んでるの?という人も結構いるのです(^^;.ただもちろん,ここで書いたことの多くは「確率の問題」なので,これを信じて忠実に実行されてひどい目に会われても責任はとりませんので悪しからず(^^;.
※ここで使われている写真や内容を無断で使用しないようお願いします.もし使用を希望される場合はメールで連絡してください.
上のページへ