ポピュラーなショパンのピアノ曲 その1: エチュード

 長らく(^^;連載?が止まっていた「クラシック音楽入門?」の続きです.「曲の呼び方」は飛ばして(後で書きますし,ぼちぼちこの中でも紹介していきます.),いきなり実戦?というか具体的なところに入っていきます.「クラシック音楽入門?」は,「どこかで聴いたことがある曲」をとっかかりとして,幅広く真の名曲,自分のお気に入りを探しながらクラシック音楽を聴いていく,というのが主旨なので,とりあえずどこかで聴いたことがあるという点では数が一番多いと思われるショパンを取り上げます.

 「ショパンのピアノ曲」とは言ってもショパンの作品は,ほとんどピアノ独奏曲です.ピアノ独奏曲以外の有名なところでは,2つのピアノ協奏曲とチェロソナタくらいでしょうか.

 まずはエチュード(練習曲)ですかね.エチュード(練習曲)というのは文字通り練習のための曲ですが,無味乾燥になりがちな(チェルニーのように(^^;.でも膨大なチェルニーの練習曲も丹念に見ていくと,中にはおっ!というようなものも結構ありますよ.)練習曲に芸術性を与えたのはショパンが最初と言われています.実際,私は数あるショパンの作品の中でなんだかんだ言ってエチュードを最もよく弾きますし,存在価値も高いと思います.ショパンの後は,リスト,アルカン,ドビュッシー,スクリアビン,ラフマニノフなど,最近ではリゲティ,カプースチンが素晴らしいエチュードを書いています.

 ショパンのエチュードには,Op.10とOp.25の2シリーズと遺作の3曲があります.Op.というのは,Opusの略で作品番号のことで,出版順に番号がついています.ショパンの最後の作品番号はOp.74(Op.74は何と歌曲)なので,大まかに言って74曲の作品を残した,ということになりますが,作品番号がついていないものや遺作と言って,死後出版されたものもあります.ショパンの作品番号がついた作品の中でも生前に出版されたのは,Op.63のマズルカまでです.

 ここではOp.10とOp.25の2シリーズの中のポピュラーなものを紹介します.それぞれ12曲ずつ,従って全部で24曲ありますが,その中でどこかできいたことのあるようなポピュラーなものは,

・Op.10の3(別れの曲)
・Op.10の4
・Op.10の5(黒鍵のエチュード)
・Op.10の12(革命)
・Op.25の11(木枯らし)

ですかね.でもこうしてピックアップしてみると,そんなに多くないですね(^^;.特に有名なのは,Op.10の12(革命)とOp.10の3(別れの曲)でしょうか.Op.10の4は最後の部分がその昔CMに使われていました.しかし,この「クラシック音楽入門?」の主旨は,「どこかで聴いたことがある曲をとっかかりとして,クラシック音楽を聴いていく」なので,残りの曲も聴いてみて下さい.え?これが練習曲?と驚かれると思います.そして,「あなたのお気に入りの曲」を是非見つけてください.上であげた曲以外には,Op.10の1, 8, 10, Op.25の1(エオリアンハープ), 12(大洋のエチュード)あたりもよく弾かれます.Op.10の2は,地味な曲ですが,右のスケールのほとんど3, 4, 5(中指,薬指,小指)で弾くという難曲です.Op.25の6の3度のエチュードも超難曲です.

midiでしたらここにいくつかあります.midiで曲を確認したら是非CDで超一流のピアニストが弾く演奏を聴いて下さい.機会があれば是非生の演奏会でも.midiを聴いた後,生の人間の弾く演奏を聴くとピアニストの存在意義がよりわかるでしょう.演奏は,やはりポリーニをあげておきます.ポリーニは1960年のショパンコンクールに優勝したにもかかわらず,その後表舞台から姿を消し,12年後の1972年にこのショパンエチュードでまさにセンセーショナルなデビューを果たしました.私も当時LPを買って聴いたときは,あまりに楽々と完璧に弾いていて,粒が揃った綺羅星のような音の並びに衝撃を受けました.当時はあまりに上手すぎるので,機械が弾いているようだ,とか,冷たい,などという批判も受けたほど話題になった演奏でした.

 有名どころではアシュケナージのものもあります.これには,3つの遺作も入っているのでこちらは完全版です.アシュケナージはポリーニが優勝した前回の1955年のショパンコンクールで2位になりました.優勝したのは地元のポーランドのハラシェヴィッチですが,その後はアシュケナージとは対照的に全くぱっとしません.政治的要因が働いたと言われていますが,かのミケランジェリがその結果に不満を持ち,サインをしなかったというのは有名な話です.もし1955年にアシュケナージが実力通り優勝していれば,アシュケナージ(1955),ポリーニ(1960),アルゲリッチ(1965),オールソン(1970),ツィマーマン(1975)とまさにショパンコンクールは世界的なピアニストを立て続けに輩出したことになります.もちろんショパンコンクールとはいえコンクールは単なる登竜門に過ぎず,ショパンコンクールで優勝したからといって世界的なピアニストにはまだまだ程遠いのが実状です.彼らが世界的なピアニストになったのは,その後の研鑽の賜であるのは言うまでもありません.逆に大したコンクールの入賞歴がないにもかかわらず一流にピアニストになった人もごろごろいます.

 日本人でショパンコンクールに入賞して,その後一流のピアニストとして活躍している人には,内田光子(1970年2位),小山実稚恵(1985年4位),横山幸雄(1990年3位)などがいます.横山幸雄さんは,写真だけ見ると私によく似ています(と妻に指摘されました(^^;.でも実物は結構違うらしいです.私は直接は見たことはないです.).ジャケットによってはほんと瓜2つ?というものもあってちょっと恥ずかしいです(^^;.日本のピアノのレベルは本当に高く(ヴァイオリンはもっと高い),もし「団体戦」があれば日本が優勝でしょう.でもまだ残念ながらショパンコンクールの優勝者は出ていませんし,世界的なピアニストもまだ誕生していないと言わざるを得ません.他の分野では,作曲家で武満徹,指揮者で小沢征爾が世界的な音楽家と言えるでしょう.2人に共通するのは,いわゆる正規のルートからはずれている,ということで(武満は正規の教育を受けていない,小沢は桐朋だが,日本で認められず海外に飛び出した),日本の音楽界のシステムは再考の必要があるかもしれませんね.分野にもよりますが,音楽に関してはやはり一流100人より超一流1人を輩出する方が重要だと思います.

 話を戻します.黒鍵のエチュードにはホロヴィッツの名演もあります.「ホロヴィッツ・プレイズ・ショパン」というオムニバスものに入っています.まさに黒鍵のエチュードの意図を見事に再現した弾けんばかりの演奏です.これに比べればポリーニの演奏はのたのたした感じに聞こえます.ホロヴィッツはかなりショパンの演奏を残していて,いわゆるオムニバスものが多いですが,その多くが名演に値するものです.ショパン以外のものも,他のピアニストの演奏とは一線を画すものが多いです.ぱっと思いつくだけでも,ショパンのピアノソナタ第2番,シューマンのクライスレリアーナ,シューマンのピアノソナタ第3番とスクリアビンのピアノソナタ第5番,ラフマニノフのピアノソナタ第2番,プロコフィエフのピアノソナタ第7番,バーバーのピアノソナタなどがあります.「ホロヴィッツ・プレイズ・ショパン」には黒鍵のエチュード以外には,英雄ポロネーズ,幻想ポロネーズなどが入っています.特にライブ録音の幻想ポロネーズは,まさに鬼気迫る名演で,演奏が終わると同時に鳴り響く拍手喝采が演奏のすごさと臨場感を体現しています.

 ホロヴィッツの演奏は,幸い生で一度だけ聴くことができました.1983年に初来日したときです.東大ピアノの会のメンバーで徹夜で並んでチケットを入手したのを思い出します(S席でなんと5万円!でした).しかしながら,演奏は...もう全盛期を過ぎてしまっていて,吉田秀和氏の表現を借りると「ひび割れた骨董品」でした.でも,なんかお祭りみたいなもんで,まあいい思い出という感じです.

 ついでに上級編?として,ショパンのエチュードをゴドフスキが編曲した「ショパンのエチュードにによる53のエチュード」というものがあります.革命のエチュードを左手だけで弾いたりとか,右手の分散和音の練習であるOp.10の1を両手で弾いたりとか,カデンツ(いわゆるコードのこと)が同じ黒鍵のエチュードとOp.25の9を同時に弾いたりとか,それこそ超絶技巧,曲芸?のオンパレードです.私はマッジのCDを持っていますが,あまりお勧めできません.アムランが弾いているので(実は聴いたことはないが(^^;),興味がある人はそれがいいんじゃないかと思います(聴いてないのに無責任).しかし,ゴドフスキによるショパンエチュードは難しい割りに演奏効果はさほどでもなく(^^;,聴いて楽しいものではないかもしれません(^^;.

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