FEMによる圧電アクチュエータ集合体のリアルタイム並列制御
Real-Time Parallel Control of Connected Piezoelectric Actuators by using FEM

Abstract


  環境や作業条件の変化に伴い、制御システムのソフトウェアは変えずにハードウェアのみを様々な形状に再構成する、 ロボットの並列制御(Parallel Control)が近年注目を浴びている。 このような環境に対する適応性に優れたロボットシステムの概念はParallel Roboticsと呼ばれ、宇宙、海中、採鉱、建築などの 作業状況が時々刻々変化する場での応用が期待されている。 一方、複数のロボットを空間内で分散協調的に動作させ、個々の要素間での 最低限の情報伝達により全体の分散制御(Distributed Control)を行う、柔軟性に優れた Distributed Roboticsという概念が存在する。 これらの概念は、いずれも特定の社会規範に基づいて行動する昆虫などの生物からヒントを得たものであり、一部の要素が機能を失っても全体系の機能は維持できる冗長性(redundancy)を持つことが大きな特長である。
 人間の体の場合、手足の動きなどごく基本的な動作については、脊髄からの周囲の環境に応じた電気信号によって個々の筋肉細胞が反応し、 手足それぞれの動作となる(並列制御)。 また、頭脳という中枢制御システムによって手足などの単体の動きが統合され、歩行などの複雑な挙動が実現される(分散制御)。 さらに、一部の筋肉細胞が死んでも他の細胞がカバーすることにより、 全体としての機能の劣化を防ぐ柔軟なシステムとなっている。
 本研究では、上記のような生物学的により人間の体に近いロボットの製作を目指すプロジェクトの一環として、微小要素によって構成される 集合体の並列制御システムについて開発・検討を行った。 その中核となる制御法としては、系全体の状況を剛性方程式によって表現し、 材料の精密な構成方程式を導入することによってより正確なオープンループ制御が可能となる、有限要素法(FEM)を用いることにした。FEMは、主に構造や 流体などの解析を行うためのツールであるが、連続体として取り扱われる系全体の 挙動を把握することが可能であり、計算時間の短縮化が図れれば有用な 並列制御法となることが期待できる。アーキテクチュアの要素としては、 機械的反応速度の速いバイモルフ型圧電アクチュエータを用い、複数のアクチュエータを連結させて集合体を 構成する。これらのアクチュエータを有限要素で表現することにより、系の中で機能を失ったアクチュエータが発生した場合でも、その 部分の有限要素の材料定数を変化させて剛性方程式を再構築する ことにより、全体としての機能の劣化を防いだ柔軟な並列制御が可能となる ことが考えられる。
 圧電アクチュエータ集合体をロボットとして機能させるには、必然的に個々の アクチュエータの動きを把握した制御が必要となる。そこで本研究では、 圧電アクチュエータロボットの基礎となる圧電アクチュエータ単体、および数個の 圧電アクチュエータで形成される集合体のFEMによるリアルタイム並列制御法を 開発することを目的とした。 本論文では、形状関数の非適合モードにより要素の面内曲げを許容した非適合四節点要素を導入し、要素数の低減化を図った。 本有限要素は、隣接要素との境界辺上で変位の連続性が保たれない ために隙間が生じ、材料剛性が若干軟化する傾向があるが、最小限の 要素数で十分使用に耐え得る精度を確保できる。 この要素を用いることにより、制御のリアルタイム化を実現することが 可能となった。
 また本研究では、バイモルフ型圧電アクチュエータの制御電圧 の算出手法として、アクチュエータ内の電位分布の線形性を利用して簡素化した 逆解析理論を使用した。本理論による逆解析手法は、一般逆行列を 用いた解法よりメモリ消費量が少なく、計算時間も短い。また、アルゴリズムの 簡便な点も大きな利点である。


In this paper, Finite Element Method (FEM) is proposed to apply for a real-time parallel control system of connected piezoelectric actuators, assuming an actuator as finite elements, which are mainly used in the computational mechanics field. Conventional control system has necessity to change state equations slightly, depending on the shape of the system or the quantity of the linked members. Meanwhile, FEM is capable of expressing the state of the total system by stiffness equations, and can cope flexibly with lack or disability of constituting members of the system by controlling stiffness matrices. An inverse problem theory, to calculate required electric voltage for obtaining target displacements, is applied to the control analysis of connected actuators. Noncompatible finite element, which allows in-plane bending mode by fewer numbers of elements, is used in the FEM control program to make the real-time control possible. As a result, the possibility of controlling piezoelectric actuators by the newly proposed methodology has been confirmed.