ASI-Gauss法による骨組み崩壊解析に基づく阿蘇大橋崩壊メカニズムの推定
Estimation on Collapse Mechanism of Aso-Bridge during the 2016 Kumamoto Earthquakes using ASI-Gauss Code

Abstract


 2016年4月14日(余震)と16日(本震)に発生した熊本地震は,熊本地方全域に大きな被害を与えた.地震動により橋台部のずれによる交通障害,石橋の損傷・崩壊,ロッキング橋脚の倒壊など,多くの橋梁が被害を受けた.こうした橋梁被害に対し,被害調査を踏まえた被害メカニズムを推定する研究1), 2),あるいは有限要素法による損傷メカニズムを推定する研究3), 4)など,多くの研究が実施されてきた.本研究では,阿蘇大橋の事例に着目し,その崩落メカニズムの推定を行った.
阿蘇大橋は,活断層ずれによる地盤変動が生じ,本震直後に完全に崩落した橋梁である(図-1).この崩落は深夜未明に発生したこともあり,被害目撃情報がなく,被災後の周辺の状況調査から,阿蘇大橋の崩落要因の考察がなされてきた.これらの調査・研究4), 5)により以下の4つが大きく関与しているものと推定されていた.
・地震動による主要部材の損傷
・地盤変動による主要部材の損傷
・崩土(斜面崩壊土砂)による荷重増大
・基盤崩壊による支持部欠損
まず1つの目の要因である地震動であるが,阿蘇大橋に最も近い点で得られた観測波は,三成分合成最大加速度が1995年兵庫県南部地震の約1.5倍と非常に大きく,地震動による主要部材の損傷が生じた可能性が残されている.2つ目の地盤変動は,阿蘇大橋近傍には活断層が存在していたことが指摘されており6),実際に航空測量から周辺の地盤が大きく変動したとの報告がある4).さらに本震直後には阿蘇大橋背面の斜面が大規模に崩壊し,阿蘇大橋の架設されていた場所にも大量の土砂が流れ込んでいた(図-2).そのため,3つ目の要因として,床版に堆積した大量の土砂の死荷重によって阿蘇大橋に加わる荷重が増大したことも考えうる.また最後の要因としては斜面崩壊の影響で,阿蘇大橋の右岸側の橋台を含む基礎地盤が崩壊し,最終的にはアーチ橋支持部が欠損したことが落橋の致命的な要因となったとの考えである.特に最後の要因である支持部欠損の要因については,7章まとめでも説明するように,その後の調査7)で右岸側の橋台はほぼ元に位置に残っていることが確認されているため,直接的な要因であった可能性が低いが,本研究では当初に考えらえた上記の4つの崩壊要因を対象とした.これらの4つのイベントは異なるタイミングで発生し,それぞれの負荷が累積して橋梁に与えられたものと思われる.しかしながら,前述の通り,落橋および斜面崩壊が深夜未明に生じたため目撃情報がなく,また阿蘇大橋の瓦礫は川底に埋没しているため,震災後の調査結果のみから崩落要因を特定することは困難を極めている.この阿蘇大橋での崩落事故を受け,断層変位など支点間変位が生じた場合の橋梁の耐震設計の見直しが必要であると指摘されている.同橋梁に対する崩落要因の推定に関する先行研究としては,例えば千田らによるFEM弾性解析4)を用いた研究が挙げられるが,弾性範囲内での考察に留まっており,また通常の有限要素法では崩壊現象まで再現することが困難であることもあり,終局状態までを数値解析で再現した例は見当たらない.そこで本研究では,骨組構造の動的崩壊解析で実績のあるASI-Gauss法8)を用い,阿蘇大橋の崩落メカニズムの推定を試みることにした.
本論文では,まずは第2章にて解析手法を概説し,第3章においてその解析手法の性能を確認した.そして第4章では,これまでに調査・観測されたデータから,地震動,地盤変動,斜面崩壊土砂の荷重を推定した標準的なシナリオ(基準シナリオ)を設定し,その基準シナリオに対する解析結果を整理した.その後, 第5章では,基準シナリオにおける外力設定の不確実性および条件設定誤差を配慮し,より危険な条件を設定した助長シナリオを設定した解析を追加実施し,前述の考えられる4つの崩落要因のいずれが支配的な要因となり得たのかを考察した.以上の基準シナリオと助長シナリオの解析結果を踏まえ,阿蘇大橋の崩落メカニズムとその崩壊モードを推定した内容を第6章にまとめて示す.


 Many bridges and infrastrucutures were damaged by the seismic waves in the 2016 Kumamoto Earthquakes, and in this research, we focused on the Aso-bridge which collapsed immediately after the main shock. A huge landslide happened after the earthquakes and Aso-bridge, which was constructed in the same location of the landslide, totally collapsed. There are a couple of reports that four main factors might have contributed to this collapse; (1) seismic wave, (2) ground deformation, (3) landslide material load increase on the bridge, (4) basement ground collapse. In this paper, a numerical analysis of the Aso-Bridge collapse was conducted using the ASI-Gauss code, which is one of the finite element method utilizing beam elements. Then, we have discussed the main factor of the Aso-bridge collapse.