ねじ締結を有する電子装置用ラックの地震時挙動再現解析
Numerical Simulation on Seismic Behavior of Mechanical Structure for Electronic Equipment with Bolted Joints

Abstract


 現代の情報社会において,コンピュータやネットワーク機器のような電子装置を常時安定的に運用することは非常に重要であり,それは地震による揺れにさらされている場合も同様である.特に地震による災害時に重要機器の故障や通信障害などが発生すれば,救命救助や避難のための活動の妨げにもなり,致命的となりうる.電子装置は一般的に専用のラック又はキャビネット型のきょう体にボルトを用いて固定して運用されることが多く,この専用ラックはサーバーラックやネットワークラックなどとも呼ばれる.情報・通信用の装置や設備に対する信頼性確保や耐震強度評価のため,それらの耐震基準や耐震試験規格が各企業や日本工業規格JIS C 6011-2によって定められているが,実際に使用する装置の種類や数量,固定位置などの構成条件やラックの設置条件は構築するシステムの規模や用途,設置される建物の構造などの多様な要因により左右されるため,それらすべての条件に合わせて振動台を用いた耐震試験を行うことは費用や工数の観点からも現実的ではない.しかし,装置の構成条件やラックの設置条件が変わるとラック全体の重心や剛性に影響するため,ラック全体の地震動に対する応答も変化することは明らかである.構成条件や設置条件がラックの地震応答にどのように影響するかを学術的に調査・研究した事例はほとんどないため,装置や設備の条件の違いによる応答の変化や地震動に対する信頼性を比較的容易に評価・検証できる手段を確立することは今後有用であり,そのためには数値解析を用いた方法が適していると考える.
 また電子装置は,取り付け・取り外しの容易さや安価なことから,ボルトを用いてラックに固定されることが多いが,ボルトのようなねじは振動や衝撃などの動的外力が作用するとゆるみが発生し,締結力が低下する.ねじのゆるみの中でも,特にボルト軸に直角な方向の外力が被締結物に作用することによって発生するゆるみが最も問題になり,それらに関する研究は,実験的手法や有限要素解析により行われてきた.しかし,ねじ締結を有する解析対象を実際にモデル化する場合には,計算リソースの制限や効率化のため,ねじは簡略化されあるいはゆるみの考慮もされないことも多く,解析に関する研究においてねじのゆるみを応用した事例はまだ少ない.
 防災科学技術研究所では,建築・土木・地盤構造物および室内の家具・什器類の地震被害や対策効果を高精度に再現する数値シミュレーションシステム(数値震動台,E-Simulator)の構築およびその活用のための研究開発を行っている.中でも非構造部材の解析は,室内安全性・耐震性の評価,避難経路の確保などに有用な手段であり,数値震動台研究開発分科会設備WG(主査:磯部大吾郎(筑波大))では,このような評価に向けた非構造部材の地震時挙動を再現する解析コードの開発を進めている.本研究では,このプロジェクトの一環として,非構造部材のひとつである電子装置用ラックの地震動に対する信頼性評価の手段の確立を目的とし,ねじ締結を有する電子装置用ラックの地震時挙動を数値解析によって再現することを試みた.また,ねじとそのゆるみを考慮したアルゴリズムを解析コードに導入し,その妥当性を検討した.具体的にはまず,実際にねじ締結を有するラックの振動台実験を行い,その実験結果とねじを考慮しない場合とした場合,ゆるみを考慮した場合の3パターンの解析結果を比較し,モデル化方法の妥当性・有効性を検討した.解析コードには,大規模な骨組構造解析において計算コストを最小限に抑えることが可能なASI-Gauss法 を用いた.ASI-Gauss法は,家具の地震時の転倒挙動解析や医療施設内の什器の地震時挙動解析などにも応用されている.


 To stably operate electronic equipment such as computers and networking devices is essential to the current information society. They should be stably operated even when they are being subjected to seismic excitations. The computers and other devices are often mounted to a framework called a rack by using some screws when they are operated. In this research, we developed an effective numerical code to analyze the seismic behaviors of mechanical structure with bolted joints such as the rack. The numerical code was developed based upon the adaptively shifted integration (ASI) - Gauss technique, which is a finite element scheme that provides higher computational efficiency than the conventional code. Loosening mechanism of bolted joint was considered by employing a bearing-surface slip frequency dependent model. We carried out a seismic vibration test of a rack on a shake-table and simulated with three types of numerical simulation models. The screw elements were not considered in the first numerical model. The screw elements were considered in the second numerical model; however, the loosening mechanism of bolted joint was not considered. In the third numerical model, both the screw elements and the loosening mechanism were considered. Each numerical result was validated by comparing with the shake-table test result. Consequently, the numerical result of the third model agreed best with the test result. These results suggest that it is necessary to consider the loosening mechanism of bolted joint when analyzing the seismic behaviors of mechanical structure with screws.