有限要素法を用いた大規模空間吊り天井の脱落被害再現シミュレーション

Collapse Simulation of Wide-Area Suspended Ceiling System Using Finite Element Method

Abstract


 学校体育館に代表される大規模空間を有する屋内運動場等施設は,災害時に避難施設としての役割を担っていることから,災害発生後も使用可能であることや余震にも耐えうる施設であることが求められる.しかし,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震では最大震度7の本震に加えて震度6以上の余震が複数回発生し,天井や外壁・内壁などの非構造部材や照明等の設備機器の脱落被害より避難施設としての役割を果たさなかった事例が報告されている.また一方,2016年4月14日の熊本地震では最大震度7の前震の後,4月16日に最大震度7の本震が発生し,前震で被害が軽微であった,または,確認されなかった場合でも,本震で天井が落下する等の大きな被害が発生するという,連続地震により天井脱落被害が拡大した事例が多く報告されている.
 東北地方太平洋沖地震以降,天井落下報告を受け,国土交通省では2013年に建築基準法の改正と関連告示の制定を行い,技術基準を2014年4月1日より施行している(以下,この技術基準をH26技術基準とする).H26技術基準では「6 m超の高さにある,水平投影面積200 m2超,単位面積重量2 kg/m2超の天井で,人が日常利用する場所に設置してあるもの」を「脱落によって重大な危害を生ずるおそれがある天井」(「特定天井」とも略される)と定義し,脱落防止対策を義務づけることとしている.2015年4月時点で公立小中学校の内,対策が未実施の吊り天井を有する屋内運動場等施設は4,849棟(全棟数33,392棟の14.5%)存在しており,耐震化の遅れている地方公共団体に対しては文部科学大臣より耐震化を進める書簡が発出されている.また,学校施設に耐震化ガイドブックを配布し,天井の定期的な点検・対策を推進している.
 これらの対策は,地震後の被災調査から推定された破壊メカニズムや天井要素の実験結果を根拠としている.しかしながら,天井要素のみを取り出した実験のみでは脱落被害の再現は難しい.そこで,天井の脱落メカニズムを明らかにするべく,2014年1月に実大三次元震動破壊実験施設(以下,E-ディフェンス)で学校体育館を模擬した大空間を有する試験体に設置された吊り天井の脱落被害再現実験が実施された.この実験により,天井の脱落メカニズムについて多くの有用な知見が得られた.しかし,天井は様々な種類の形状が存在するため,それぞれの場合での脱落メカニズムの解明が望まれる.また,同一形状の天井においても,設備の干渉等の現場毎に異なる特殊な環境が存在することから,実験の再現性を把握するため,結果のばらつき評価も必要になる.そのためには,様々な条件での検証や同一対象でも複数回の検証が必要となるが,大規模実験のみではコスト面で問題があり,その代替,補完手法として数値シミュレーションの果たす役割は大きい.また,今後危惧される連続地震に備え,連続地震解析による天井の脱落メカニズムを検証することは重要である. 
 そこで本稿では,地震時の体育館内における天井落下現象を再現するシミュレーション技術を構築し,上述の吊り天井の脱落被害実験の再現解析を試みた.解析には,地震動,弾塑性,破断を含む非線形性の高い解析でも安定して行えるASI-Gauss法を用いた.実験では吊りボルトやブレースの座屈現象が確認されたため,体育館構造躯体に未対策天井を取り付けた試験体を対象とし,上記部材の座屈現象を再現可能とするようなモデル化を施し,地震応答解析を実施した.実験と同様に地震波形を連続的に2回入力し,その前後の被害の推移について検証した.


In this paper, a numerical analysis to simulate the ceiling collapse in a full-scale gymnasium specimen, which was tested at the E-Defense shaking table facility in 2014, was conducted. The numerical model consisted of steel structural frames and suspended ceilings were constructed. All the members were modeled using linear Timoshenko beam elements and the ASI-Gauss code was applied. The numerical result had shown the collapse of the ceilings progressed owing to the detachment of clips that connected the ceiling joists to the ceiling joist receivers, which eventually led to a large-scale collapse of the ceilings.