火災崩落解析による高層建築物の崩壊開始時間に関する検証
Verification on Collapse Initiation Times of High-Rise Buildings by Fire-Induced Collapse Analysis

Abstract


 高層建築物の火災を引き起こす要因や火災規模は様々であるため,総合的かつ効率的に対応できる構造対策を構築するのは困難である.また,9.11事件で倒壊したニューヨーク世界貿易センター(WTC)ビルのように,飛行機衝突の際にジェット燃料が拡散して大規模火災の要因となった事例も存在する.このような大規模かつ複雑な現象が絡み合う問題に対し様々なパラメータスタディを行う上で,高精度で効率的な数値解析手法が求められている.一方,9.11事件に対し米国の研究調査機関FEMAとNISTがまとめた報告書によると,風外力に対する補強システムとしてWTCビルの上層階に設置されたアウトリガートラス構造が,その崩壊開始までの時間を稼ぐのに有効であった可能性が示唆された.チューブ構造上部にアウトリガートラス構造が設置されていると応力伝達経路が増し,内力が緩和され,崩壊開始までの時間が延びることは十分に考えられる.また報告書では,WTC1とWTC2で航空機の衝突箇所および火災範囲が異なったことが,それぞれの崩壊開始時間の差異につながったとしている.高層建築物においては,火災が広範囲に渡ると建物内の応力伝達経路が限られてくるため,集中した応力を冗長的に緩和することが困難になると考えられる.いずれにしても,これらの事項は高層建築物の火災対策にとって重要な問題であるため,引き続き調査を進める必要がある.本稿では,ASI-Gauss法に基づく解析手法に建築物の崩落挙動をリアルに表現できる新たなアルゴリズムを導入し,モデル化した30層7スパンのチューブ骨組構造に大規模火災が発生した場合に,その火災範囲,アウトリガートラス構造の強度,接合部強度が建物の崩壊開始時間や崩壊挙動に及ぼす影響について数値解析を通じて検証した.その結果,火災範囲および構造強度が建物の崩壊開始時間に明らかな影響を与えることが確認されたので,ここに報告する.


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