並列的解法を用いたトルクキャンセリングシステムの提案
Proposal of Torque Cancelling System Using Parallel Solution Scheme

Abstract


 ロボットが腕や脚,あるいは重量物を高速に振り回したりする場合に,機構全体に動揺が生じる場合がある.その原因は,入力トルクの反作用として回転軸回りおよび重心回りにモーメントが発生するためである.このような動揺を抑制する対策については,様々な分野で研究が行われている.例えば航空宇宙の分野では,人工衛星やISS(国際宇宙ステーション)等にリアクションホイールやCMG(Control Momentum Gyro)といった機器を配備し,衛星本体の角運動量保存則を利用した姿勢制御を行っている.こうした回転体による角運動量の変化を利用した姿勢制御は,宇宙分野では主流となっている.しかし,高速動作を行う機器に対しては,動作対象のダイナミクスを正確に把握し,正確なトルクを供給しないと逆に動揺が激しくなる恐れがある.
 他方,磯部らは柔軟リンクや劣駆動リンク,閉リンクなど様々なリンク系の逆動力学を正確に算出可能な並列的逆動力学計算法(以後,並列的解法と記す)を開発した.この手法を用いると,従来はダイナミクスを正確に導出することが困難だった系に対しても,追従性の良い安定したフィードフォワード制御を実現している.さらに,本解法は有限要素法のアルゴリズムに基づいているために,モデル内の任意の箇所(節点)に発生するモーメントを正確に算出できる.すなわち,任意の箇所に加えるべき適切な反転トルクを算出することが可能となる.この特長を利用すると,例えば複雑な動作対象に対するトルクの供給,およびそれに伴う動揺を抑制するための反転トルクの供給が単一のシステムで実現され,ロボット機構の高速動作における安定性の向上に大きく貢献できるものと考える.

 本稿では,動作対象の軌道から,並列的解法により逆動力学および系内に発生するモーメントを計算する過程を示す.そして,その発生モーメントをキャンセリングするトルクキャンセリングシステム(以後,TCS と記す)の概念について説明し,回転軸回りに発生するモーメントによる動揺を抑制する実験結果を示し,TCSの有効性を示す.


We propose a new concept of torque cancelling system which stabilizes mechanical sway in architectures. The torque cancelling system (TCS) cancels the reaction moment generated by motion of an object. The reaction moment can be calculated accurately using the parallel solution scheme, which handles the dynamics of various robotic architectures by modeling them with finite elements. Once knowing the reaction moment, it can be cancelled by applying an anti-torque to the TCS. An example of torque cancelling is demonstrated using a simple rotor-TCS system. Also, a numerical example of triaxial torque cancelling is shown to verify the use of the scheme.


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