Abstract
2001年の米国同時多発テロによる世界貿易センター(WTC)の崩壊は、複数階での火災による
部材の強度低下が主な原因であるという説が有力となっている。しかし、それはあくまで崩壊へ
至る最終的な要因であり、それ以外の様々な要因も関係していたと考えられる。本研究の主な目的は、
進行性崩壊に影響を与えたと推測される要因を数値解析によって検証し、最終的には進行性崩壊現象を
解明するものである。本稿では、「部材接合強度の違い」と「上層の落下形態の違い」の2つを検証
する。前者は、飛行機の衝突による衝撃力が部材接合部を弱体化させたのではないかという推測に
基づいた要因であり、WTCの接合部が風荷重しか想定していなかった比較的簡素な構造であったことを
根拠としている。後者は、WTC崩壊の記録映像から浮かび上がった要因であり、具体的には、被災階から
上層の部分がWTC1ではほぼ垂直に落下したのに対し、WTC2では大きく傾きながら落下したと
いう相違がある。
これらの検証には、構造物の情報を部材単位で捉えつつ構造全体を動的に数値解析する手法が有効で
あると考えられ、これに該当するものには有限要素法が挙げられる。しかし、解析対象の空間的・
時間的規模の大きさに起因する膨大な計算コストや、部材破断・部材同士の衝突といった強非線形性・
不連続性が障害となり、実際に解析を行ったという例は少ない。また、進行性崩壊現象については
エネルギ論的に扱う研究報告例が多いが、これは現象の大勢を把握するのに有効な反面、上記のような
要因を特定することはできない。そこで本研究では、最小限のコストで計算が可能であるASI-Gauss法を
用いることで、計算時間の短縮化を図った。ASI-Gauss法の詳細については他文献に譲り、本稿では、
10層1スパン骨組構造に対し上記2つの要因について検討した結果を報告する。