火災による耐力低下を考慮した骨組構造の崩落解析
Collapse Analysis of Framed Structures Considering Strength Reduction Caused By Fire

Abstract


 構造用の材料として広く利用されている鋼材は、溶融点が高く、火災加熱を受けても部材の溶解は比較的少ない。しかしながら、火災が構造物内で発生した場合、加熱温度の上昇に伴って比較的低い温度と低い応力度で部材の変形が発生し、構造物に多大な影響を及ぼすことがわかっている。火災は、実際に2001年の同時多発テロによる世界貿易センタービルの崩壊の大きな要因としてあげられており、特にWTC7はWTC1やWTC2のように外からの衝撃をほとんど受けておらず、完全に火災のみの影響により崩落に至ったと考えられている。この事件をきっかけに、構造物の耐火強度や、それが構造物の崩落に至るまでの時間に与える影響などについて事前に調査するための手法が求められるようになってきた。
 従来から、骨組構造の解析には有限要素法(FEM)が広く用いられるが、部材破断などの強非線形性・不連続性を有する問題を解く場合には困難が多かった。そこで、線形解・非線形解共に高精度の収束解が得られる順応型Shifted Integration 法(ASI法)が考案された。本手法を用いることにより、通常のFEMに比べ少数の要素で高精度な崩壊荷重解が得られるだけでなく、部材破断が容易に表現可能となった。しかし、ASI法に用いられる線形チモシェンコはり要素は1点積分法により剛性および応力が評価されるため、少数要素では弾性変位解が硬めに算出されてしまうという問題点があった。一方、火災が骨組構造物に与える影響を調査するような長時間の変化を解析する場合、より少ない計算コストが求められる。そこで、線形チモシェンコはり要素に弾性変位解の精度を向上させるために改良が加えられ、ASI-Gauss法が開発された。本稿では、最小限の要素数で高精度な解が得られるASI-Gauss法を用い、火災による耐力低下を考慮した骨組構造の崩落解析を実施した結果について報告する。解析では部材の線膨張率を考慮し、さらに部材破断と接触のアルゴリズムを導入することにより、構造物が崩落に至る挙動をリアルにシミュレート可能とした。


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