並列的解法によるフレキシブルマニピュレータの逆動力学計算
Calculating Inverse Dynamics of Flexible Manipulators by Using Parallel Solution Scheme

Abstract


 近年,エネルギ消費量の削減やロボットの製作コスト削減を目的として,ロボット機構のさらなる軽量化の必要性が高まっている.しかし,部材の軽量化はリンク剛性の低下を招き,機構内に発生する弾性たわみや曲げ振動が無視できなくなる.この問題は,機構を完全剛体と仮定して設計することが多い現状において,その制御を非常に困難なものとする要因の一つとなっている.そのため,弾性たわみを考慮したロボットアームのモデル化や逆動力学計算などの研究も精力的に行われている.しかし,従来の動力学方程式には機構の構造や運動などに関する全ての変数が混在し,さらにトルクの次元で求解を行っていた.そのため,弾性たわみの影響を考慮した逆動力学計算には大変複雑な処理を要していた.
 他方,連続体力学に基づく数値解析手法として広く利用される有限要素法は,全体直交座標系に基づいて系全体を微小要素に離散化し,全体方程式にまとめて解を求める解析手法である.そのため,各要素の情報が並列的に取り扱われ,系の構造に依存せず,マトリクス計算によって節点力や変位・ひずみ等が算出される.この特長を利用し,リンクの形態に依存しない逆動力学計算法として並列的解法が開発された.従来の手法の一つ,例えばニュートン・オイラー法が相対回転座標系に基づいて再帰的な処理により動力学方程式を求める直列的なアプローチをとるのに対し,本手法は並列的なアプローチをとると言える.本解法では,リンク機構に与えられる目標軌道から,動的な効果を含めた各節点力を算出し,力学的な関係に基づいて各関節トルクに換算する.また,従来の動力学方程式が全ての成分が混在した形をとるのに対し,本解法のトルク換算式は,力の次元に関する成分,座標変換に関する成分,系の構成部材の長さに関する成分ごとのマトリクスに分離される.そのため,機構構造が複雑な場合や制御の途中で構造が変化する場合にも,入力データの変更のみで柔軟に対応できる.これによって,従来の逆動力学計算法では困難であった閉リンク機構や,開・閉ループが交互かつ連続的に発生するような機構に対する逆動力学計算,さらにこれらの機構のフィードフォワード制御などが,アルゴリズムを変更することなく実行可能となった.ロボットの動作のさらなる高速化が求められている現状において,これは非常に重要な意義を持つものである.さらに,本解法では動的な効果を含めた節点力を求めれば全関節トルクが算出されるため,剛体リンク系でも柔軟リンク系でも,その計算アルゴリズム自体に差異が生じない.この特徴を利用して,並列的逆動力学計算法に対し,有限要素によって弾性たわみを考慮した軌道計算アルゴリズムを付加することで,柔軟リンク系に対しても適用可能な解法が開発された.また,軌道計算と逆動力学計算を同一モデルで行うことにより,リンク機構に任意のタスクを与えた場合に,その軌道の算出から必要な関節トルクの算出までの過程を包括的に一つのアルゴリズムとして扱うことが可能になった.
 本報告では,文献の軌道計算アルゴリズムと逆動力学計算アルゴリズムに対し,線形チモシェンコはり要素とBernoulli-Eulerの理論に基づく3次はり要素の2種類の有限要素を導入,比較・検討し,計算コストの削減を図った.さらに,本軌道計算アルゴリズムの有効性を示すこと,また,フレキシブルマニピュレータのフィードフォワード制御の実現に必要なリンク部材の減衰定数を得ることを目的として,実機による検証を行った.


In this paper, some verifications are done on the calculation cost of a formerly proposed parallel solution scheme for calculating inverse dynamics of flexible manipulators. The solution scheme, with proper target trajectories as input data, can easily calculate inverse dynamics regardless of member stiffness of the constituted links. Target trajectories are calculated by using another scheme, which is based upon the principle of virtual work, where member stiffness and damping effects are incorporated in the trajectory data. Link members are modeled and compared, between the linear Timoshenko beam and the cubic beam elements. Some numerical tests and experiments are carried out on a simple flexible link system, and the results show that the parallel solution scheme can achieve high accuracy at low calculation cost.


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