飛行機の衝突に伴う骨組鋼構造の崩壊解析
Structural Collapse Analysis of Steel Framed Structure due to Aircraft Collision

Abstract


 2001年9月の米国同時多発テロによるニューヨーク世界貿易センタービル(WTC)の崩壊は,世界中を震撼させた.衝突した飛行機の燃料による火災が構造耐力を低下させ,最終的に漸次的な崩落現象を引き起こしたという説が有力である.その一方で,飛行機が衝突した瞬間に床スラブを連結するジョイントが破壊され,構造的にはいつ崩落しても良い状態に達してしまい,必要なのはその引き金だけだったということも考えられる.いずれにせよ,今後の高層建築設計の指針に反映させる上で,数値解析による衝突時の被害状況の詳細な検討が必要である.
 構造物の不連続な崩壊現象を解析する手法として個別要素法(DEM)や不連続変形法(DDA)等が挙げられるが,これらは元来不連続なモデルを扱うため,連続体の挙動解析では精度が落ち,また,3次元化が困難である等の問題点がある.有限要素法を用いた動的解析手法によりWTCの衝突被害を解析した例では,衝突被害状況を動的荷重下の詳細解析により求めた後,改めて静的な解析により衝突後の構造物内の応力分布を求めている.従来の有限要素解析手法を用いる場合には,計算コスト等の観点からこのように衝突前後の2つの局面に分けて解析を行う場合が多い.その一方で,弾性域から破断が生じるような強非線形領域まで連続的に解析可能となれば,衝突後の被害状況のみならず,衝突前後の応力分布の推移や衝撃波の伝播の様子等を知ることが可能となる.本研究では,計算コストが小さく,骨組構造の有限要素解析手法でありながら部材破断の考慮を可能とする順応型Shifted Integration法(以下,ASI法と記す)に対し,弾性域の精度を増す工夫を施し,飛行機の衝突に伴う骨組鋼構造の崩壊過程を連続的に解析可能な有限要素解析ツールを開発することを目的とした.
 ASI法では,はり要素内の数値積分点の位置を材料性状に合わせて順応的にシフトし,塑性ヒンジを要素内の的確な位置に表現する.そのため,最小限の要素数で骨組構造の解析が可能となり,計算コストの大幅な削減が実現される.ASI法はさらに大変形問題,準静的・動的問題にも適用され,大規模な骨組構造物に対する有効な解析手法として確立されるに至った.また,数値積分点をシフトして要素端に仮想ヒンジを表現し,その上で瞬間的に断面力を解放することによって部材の破断を表現可能であるため,破断を含む強非線形・不連続問題にも適用された.
 ASI法における塑性ヒンジ発生位置と数値積分点位置との関係は,Bernoulli-Eulerの定理に基づく3次はり要素,および線形チモシェンコはり要素に対して導出されている.前者を用いる場合には,1部材当り1要素という要素数でも弾性変位解が保証され,通常の大規模骨組構造の解析を行うのに適している.しかし,3次はり要素は2点積分法に基づいており,横たわみの不連続性を許容しないため,破断を考慮した解析には適用できない.一方後者は,1点積分法に基づいているために破断の表現は可能となるが,部材両端の塑性ヒンジを表現するために1部材当り最低2要素を必要とし,さらに弾性域で曲げ変形に対する精度が落ちるという,この要素が本来有する欠点が存在する.そこで本研究では,線形チモシェンコはり要素を使用するASI法において,弾性域での変位解の精度を上げる上げることを目的とし,ASI-Gauss法を開発した.本手法では,2要素単位で一つのサブセット要素として扱い,その2つの応力評価点をBernoulli-Eulerばりと同様にガウス積分点に相当する位置に配置し,弾性域での変位解の精度向上を狙う.本論文では,ASI-Gauss法の有効性を検証するとともに,破断後の要素が他要素と接触する際の接触アルゴリズムをエネルギ保存の観点から検証し,これらを10層4スパン奥行き4スパン骨組鋼構造に飛行機が衝突する際の崩壊解析に適用した.


In this study, the formerly developed Adaptively Shifted Integration (ASI) technique for the linear Timoshenko beam element is modified into the ASI-Gauss technique by placing the numerical integration points of the two consecutive elements forming an elastically deformed member in such a way that stresses and strains are evaluated at the Gaussian integration points of the two-element member. On comparison with the ASI technique, the ASI-Gauss technique proves its higher accuracy and efficiency in elastic range. Instead of applying impact loads in the form of nodal forces, this study simulates the impact phenomenon by means of contacts between the elements involved and the elemental contact algorithm is verified from the point of conservation of energy. A structural collapse analysis of a steel framed structure due to collision with a small aircraft is performed by considering member fracture. From the results obtained, we can observe propagation phenomena of impact loads and shock waves. Moreover, a considerable difference of the impact damage on the structure is observed when the cruise speed of the aircraft is changed.