汎用を目的とした逆動力学計算法の開発
Development of Inverse Dynamics Solution Scheme for Purpose of General Use

Abstract


 近年,ロボットに対し,その動作高速化の需要がますます高まっている.一方,高度な要求が機構の複雑化につながり,例えばその動力学方程式を導出する過程が,初学の研究者(一般ユーザ)にとってはハードルの高い存在となっているのが現状である.同様に,このような複雑な機構に対し力制御をしたい局面では,ヤコビアンの導出に困窮する一般ユーザが多いのではないだろうか.確かに,上記のような個々の局面に対処するための要素技術は存在する.各々の場合でその技術を使い分け,問題を解決することは可能である.しかし今後,一般ユーザの裾野が広がり,ロボット(またはその動作)に対する要求がますます多様化した場合,要素技術がこのように多極化した状態で果たして真の意味でロボットは発達するであろうか.
 筆者らは,ロボット工学や制御工学の知識をあまり持たない技術者に対し,簡易でかつ汎用的な方法を提供することが,今後のロボットの発達を促進させるものと考える.システムや要素技術のインテグレーションによる汎用化はもちろん可能であるが,本研究では,理論の統一による汎用化を目指す.その観点で,力の次元の運動方程式を並列的に解いてトルクを求めるという,全く新しい発想に基づいた逆動力学計算法を開発した.3次元に拡張された本解法はフィードフォワード制御系にも適用され,その有効性が立証された.その特徴は,系全体を有限要素により離散モデル化後,直交座標系で表記された全体座標系での連立方程式を解き,モデル内の節点に作用する節点力を並列的に求め,これを各パラメータに分離されたマトリックス形式の換算式に代入し,トルクを出力するという点にある.モデルの形状と目標軌道の入力のみで様々なリンク系の動作に対応し,また動力学方程式に相当する部分の書き換えを一切必要としないため,ユーザに対する簡便性を維持することが可能である.他方,本解法は増分的に解を算出する近似解法であるため,実際に制御系に組み込んでも精度と計算時間の観点から問題は無いものの,厳密解を与える動力学方程式を用いた方法に比べ3倍程度の計算時間を要することが確認されている.
 理論の詳細については他文献に任せ,本稿では動力学方程式を用いた従来の手法との相違を中心に解説し,複雑系の一種である枝分かれリンク系の数値例およびフィードフォワード制御結果について述べる.さらに,2本のマニピュレータを使い,一定の力で物体を把持したままそれを振り回すという,動力学補償と発生トルクの同時算出を必要とした力制御実験結果について報告する.


Generally, robotic tasks include motions that generate open and closed loops alternately, and the dynamic equations of the system (or the numerical algorithm) require instant switching during the motion in feed-forward control. The switching may lead to instability of the control, and the issue will become essential particularly for massive, quick motion robots. A new solution scheme of inverse dynamics is developed for the purpose of general use, in order to ensure the simplicity in dealing with such transforming systems or those with complex configurations, or the calculation of Jacobian matrices in force controls. In this paper, we describe some application cases on feed-forward control of multi-branch link systems, and on force control of two manipulators holding an object in a motion much affected by their dynamics.


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