研究活動

近年,災害に対してリスク学的アプローチによる分析並びに評価が盛んに行われるようになってきています.リスク学の分野は元来,1900年代初頭より米国の保険業界を通じて発展してきた分野であり,その歴史は100年程度しかありませんが,ここ10年程度の動向を振り返ると,リスク学が対象とする領域は,保険や金融問題だけでなく,人為的災害や自然災害,環境汚染,病気やウィルス,犯罪などの我々人間が関知する様々な問題に拡大しつつあります.これは,このような社会や個人が抱える問題をリスクという共通の概念によって俯瞰的に記述することが可能となり,リスク分析やリスクアセスメント手法を適用することによって定量的な予見が可能となるためです.
 
リスク事象で特に注目されているのはカタストロフ(catastrophe)なリスクです.これは,交通事故などの定常的なリスクではなく,低頻度ではあるが,一度起こった場合の損失が甚大となるリスクのことを指します.カタストロフ・リスクの例としては,突然変異的に蔓延する重度感染症(最近の重症急性呼吸器症候群)の発現や,巨大管理システムのダウン(銀行ATMの誤作動,航空機管制システムの制御不能),大規模自然災害(大地震,火山活動)の発生,バイオテロ(大量殺戮兵器や化学兵器の使用)などです.このようにカタストロフ・リスクの特徴は,現段階の技術では確定的に予見することが難しく,かつ生起した場合の影響の波及が時空間的に極めて甚大となる点にあります.前者の予見性の問題に関しては各分野において学問的な検討(例えば,重度感染症の発症メカニズムの解明や地震予知技術の開発など)が鋭意進められていますが,後者のリスク事象の生起による影響の時空間的波及に関しては極めて複雑な事象を扱うため,全体像が十分に明らかになっているとは言えません.従って,現在,リスク事象の生起と社会・経済活動に対する影響との関連に関する検討が重要な課題となっています.
 

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