 | 蒸気爆発とは? |
|  | どんな現象? |
| |
「蒸気爆発」という言葉はあまり聞きなれない言葉ではあると思いますが、工業のプラントの安全性を考えるうえで
は重要な現象の1つであります。
ドロドロに熔けた金属のような高温の物質と水などのような低温の物質を扱う
金属の精錬所、鋳造工場または化学工場などでは、これら2つの物質が何らかしらの要因で接触したとき、威力の大きい爆発を
起こすことがありました。この爆発によって、そのプラントの設備が破壊されたり、時には人が被害をこうむることがありました。
そこで、プラントの安全性を考えるうえでは無視できない現象となり、この現象を明らかにする研究が1950年頃から
はじまりました。
研究が始まった当初は、どのような要因で起こった爆発かはわからず、「Thermal Explosion(熱的な爆発)」と呼ばれて
いました。そして、さまざまな研究者の手によって研究が行われ、冷たい水より発生した蒸気が関与して
この爆発が生じていることが明らかとなり、この現象は「Vapor Explosion(蒸気爆発)」または
「Steam Explosion(水蒸気爆発)」と呼ばれるようになりました。
|
| |
|  | 実際に蒸気爆発が起こった事例 |
| |
| 年 | 場所 | 状況 | 高温の物質 | 低温の物質 |
| 1961 | アメリカの原子炉 | 原子炉が暴走して燃料が熔け、冷却水と接触 | 酸化ウラン | 水 |
| 1984 | 富山県のアルミニウム鋳造工場 | 溶解炉に雨水を含んだアルミニウムを入れる | 熔融アルミニウム | 水 |
| 1985 | 茨城県の鹿島コンビナートの 脱硫・脱酸素剤製造工場 | 約1300度の熔融マンガンが流出し、水と接触 | 熔融マンガン | 水 |
| 1988 | 兵庫県の製鉄所 | 約1500度の鋳鉄が漏れ、水と接触 | 鋳鉄 | 水 |
| 1989 | 大阪府の製鉄所 | 高温熔融物に水がかかった。 | ? | 水 |
| 1990 | 山形県の廃品処理回収工場 | 火災消火中に熔けたアルミニウムと 放水した水が接触 | 熔融アルミニウム | 水 |
|
| |
 | 蒸気爆発のメカニズム |
| |
| 蒸気爆発という現象を明らかにするためには、まず、その発生手順を明らかにする必要があります。さまざまな研究者がこの現象を観察し、大まかには右図のような手順で起こっているということが明らかとなりました。 |
 |
|
| (1) | まず初めに、高温のドロドロ熔けた金属Aと冷たい水Bが何らかの要因で接触します。 |
|
| (2) | すると、熔けた金属は水の中で細かく分裂し、その分裂した塊(熔融液滴といいます)1つ1つが蒸気の膜で覆われます(この現象は「Premixing(粗混合)」と呼ばれています。)。この蒸気の膜は断熱材と同じ効果をもっており、熔融液滴は熱をもったままの状態となります。 |
|
| (3) | 熔融液滴周りの蒸気の膜が何らかの要因で壊れ、液状の熔融液滴と水が直接接触した場合(溶けた液体状の金属と水が接触するので「Liquid-liquid contact(液−液接触)」と言います)、熔融液滴は更に細かく分裂し(この現象は「Atomization(微粒化)」と呼ばれています。)、水と直接接触する面積が更に増えます。そして、断熱材の役割を果たしていた蒸気の膜がなくなったので、急速に熱が移動し、水が蒸発することによって蒸気が発生します。蒸気の体積は水の体積よりもかなり大きいので、発生した蒸気が水を急激に押しのけようとします。この現象によって、圧力波が発生します。 |
|
| (4) | この圧力波が水中を伝播し、周りにある熔融液滴の蒸気膜を壊し始めます。そして、(3)の現象がおきます。この(3)、(4)が水の中で連鎖していき、最後は大きな圧力波を発生させ、爆発的な現象となります。 |
|
| この4つの段階で、(3)の段階は蒸気爆発を起こすか起こさないかを決める段階であり、「Triggering(トリガリング)」と呼ばれています。つまり、このトリガリングを明らかにすることによって、蒸気爆発の発生条件を調べることができるのです。 |
|
| |
 | トリガリング |
| |
| 次に、トリガリングを詳しく見てみることにします。右の図には粗混合から液滴の微粒化までの流れが示してあります。 |
 |
|
| (1) | 初め、熔融金属が粗混合して、熔融液滴の周りに蒸気の膜ができたとします。ここで、蒸気の膜が起こす挙動は3つに分類できます(図中(I)) |
|  | 蒸気の膜が壊れる場合は次の段階に進みます。 |
|  | 蒸気の膜が安定な場合、または激しい沸騰を起こすだけの場合では液滴が冷やされるだけとなり、爆発は起こりません。 |
|
| (2) | つぎに、高温物体と水の接触が起こります。このとき、接触のパターンで2つに分類できます(図中(II)) |
|  | 液状の金属と水が接触した場合は次の段階に進みます。 |
|  | 固体上の金属と水が接触した場合には、ただの金属の塊を冷やす状態となり、爆発は起こりません。 |
|
| (3) | 高温液滴と水が液−液接触を起こした場合、液滴の状態は2つに分類できます(図中(III)) |
|  | 高温液滴が不安定な状態である場合、液滴が細かく分裂する微粒化を起こします。 |
|  | 高温液滴が安定な状態の場合、そのまま冷却されて、液滴が固体となり、爆発は起こりません。 |
|
| |
 | トリガリングのモデル |
| |
蒸気爆発のトリガリングのモデルとしてはさまざまなモデルが提唱されています。たとえば、以下のようなモデルが提唱されています。
 | 蒸気の膜が崩壊するときに水がジェットとなって熔融液滴に向かって飛ぶことにより微粒化が起こる「Micro-jet model(マイクロジェットモデル)」 |
 | 熔融金属に溶け込んでいる気体が膨張して微粒化を起こすという「Gas release model(ガス放出モデル)」 |
しかしながら、蒸気爆発の全過程を説明するモデルとしては「Spontaneous nucleation model(自発核生成[注1]モデル)」と「Thermal detonation model(熱的デトネーションモデル)」が代表的なモデルとされています。ここではこれら2つのモデルを紹介します。
注1 自発核生成:
ガスコンロでなべを使ってお湯を沸かした場合を考えます。水の温度が沸点付近になると、なべの底からポコポコと泡ができます。
そしてさらに火にかけておくと、ぐつぐつと煮え立った状態となります。
さて、なべの底から泡がなぜできるのかを考えてみることとしましょう。泡のできる位置をよく見ていると、ほとんど同じ場所から
できている様子が見られます。実は、なべの底には見えない傷がいっぱいついています。泡ができるには何らかの「きっかけ」が
必要であり、このなべの底の傷がきっかけとなって泡ができ、沸騰が起こるわけです。このきっかけを「Core(核)」といいます。
なべの底の傷やとても小さいちりなどの不純物がこの泡のできる核となります。
では、不純物がない水をまったく傷がないなべで沸かすとどうなるでしょうか?この場合は、水が沸点以上になっても沸騰を
起こさないのです。そして、ある温度を超えたときに急に泡ができ始めて激しい沸騰を起こします。これは、水は沸騰を起こしたい
けれどもきっかけとなる核がなく、温度があがっていくにつれて水自身が液体の状態でいられなくなってしまい、突然沸騰を起こし
始めてしまったのです。この現象は、水があたかも核を自分で作ったかのような振る舞いをするので
「Spontaneous nucleation(自発核生成)」と呼ばれています。またこのときの温度を
「Spontaneous nucleation temperature(自発核生成温度)」といい、普通の大気圧下では水の場合約300度で
あることが実験よりわかっています。
|
| |
|  | 自発核生成モデル |
| |
| 1973年にArgonne国立研究所のFauskeという研究者が、「Spontaneous nucleation model(自発核生成モデル)」と名付けたモデルを提唱しました。このモデルは、大規模蒸気爆発が起こるための必要条件として考案されたモデルです。大規模な蒸気爆発が起こるためには次の3つの条件が必要であると提唱しています。 |
 |
|
| (1) | 熔融金属周りの蒸気の膜が崩壊し、熔融金属と水の直接接触が起こること。 |
|
| (2) | 接触時に、熔融金属と水の境界面の温度が「Spontaneous nucleation temperature(自発核生成温度)」以上であり、爆発的な沸騰が起こること。 |
|
| (3) | 大規模な蒸気爆発を起こすためには拘束された系であること。 |
|
この(1)と(2)を概念的に示したのが右の図です。
何らかのきっかけによって発生した圧力が蒸気の膜を崩壊させた場合を考えます(上図)。このとき、熔融金属と水が直接接触を起こしたとします。接触した瞬間の温度分布は下図のようになります。この温度分布は理論的に計算することができます。この熔融金属と水の境界面の温度を「Interfacial temperature(界面温度)」と呼びますが、Fauskeはこの界面温度が自発核生成温度以上でなければいけないということを提唱しているのです。 |
|
しかしながら、このモデルでは「静」の部分は説明できるのですが、熔融金属の微粒化、圧力波が短時間に広い範囲に伝播していく圧力の変動、現象が広い領域で起こる干渉性、熱のエネルギーから運動のエネルギーへの変換などのように、「動」の部分が説明できないと言う批判もあります。 |
|
| |
|  | 熱的デトネーションモデル |
| |
自発核生成モデルで受けた批判に応えるモデルとして、1975年にBerkeley原子力研究所のBoardという研究者が「Thermal detonation model(熱的デトネーションモデル)」を提案しました。
「Detonation(デトネーション)」という言葉はもともと燃焼の分野で使われていた用語です。燃焼することができる気体中で、燃焼が伝播していくときに音速以上の速度で伝播する燃焼様式のことです。この概念を蒸気爆発に応用したのがBoardの熱的デトネーションモデルです。
右の図は、水中に熔融液滴が粗混合した領域を圧力波が通過していく過程を示しています。この過程は、大きく6つの段階に分けることができます。 |
 |
|
| (1) | 粗混合した熔融液滴の周りに形成された蒸気の膜を崩壊させるのに十分な強さの圧力波が到来する。 |
|
| (2) | 圧力波によって蒸気膜が崩壊する。ここで、図中の矢印は加速度の大きさを表している。 |
|
| (3) | 熔融金属と水の密度の違いから、これらの間の加速度の差がだんだん大きくなってゆく。 |
|
| (4) | 加速度の差が十分大きくなると、熔融金属の形が不安定となる。 |
|
| (5) | 熔融金属が微粒化を起こす。この微粒化によって熔融金属の表面積が大きくなり、水と熔融金属が直接接触することで急速な熱の移動が起こる。 |
|
| (6) | 蒸気の発生によって圧力が上昇し、蒸気爆発となる。 |
|
| これが、熱的デトネーションモデルの概要です。しかしながら、このモデルが蒸気爆発を表現しているかどうかということは十分はっきりとされていません。ただ、近年の蒸気爆発の研究では、熱的デトネーションモデルに基づいた実験や解析が多くを占めています。 |
|
| |
 | 研究の内容ならびに目的 |
| | 本研究室では、蒸気爆発のトリガリングに関して重要な現象である蒸気膜の崩壊挙動ならびに熔融液滴の微粒化現象に関する研究を行っております。 |
|  | 蒸気膜の崩壊挙動に関する研究 |
| |
本研究では以下に示す事柄を行い、蒸気膜の崩壊挙動を明らかにすることを目的としております。
| (1) | 蒸気膜の崩壊挙動の可視観測を行い、微視的な挙動を観察する。 |
| (2) | 蒸気膜崩壊時の蒸気−液界面の速度場計測を行い、微視的な挙動を観察する。 |
| (3) | 蒸気膜崩壊時の蒸気膜周りの熱伝導解析を行い、蒸気―液界面の温度を明らかにする。 |
|
| |
|  | 熔融液滴を用いた液滴の微粒化に関する研究 |
| |
本研究では以下に示す事柄を行い、熔融液滴の微粒化現象を明らかにすることを目的としております。
| (1) | 熔融物質を変えて実験を行い、挙動を観察する。 |
| (2) | 水中を落下する熔融金属に圧力波を当て、挙動を観察する。 |
| (3) | これらの実験より蒸気爆発が起こる条件、起こらない条件を推定する。 |
| (4) | 原子炉の燃料である酸化ウランで蒸気爆発が発生する可能性があるかどうか評価を行う。 |
|
| | これらの現象を明らかにすることでトリガリングの挙動を解明し、蒸気爆発の発生する条件を明らかにすることを本研究の目的としております。 |