超音波による液中大気泡の

並進運動制御システムの開発

 

《初めに》

現在及び近い将来、スペースシャトルや宇宙ステーションなどによって微小重力環境へ様々な地上機器が進出するにともない、微小重力下における気液二相流の制御が一つの重要な技術となることが予想される。二相流挙動は重力に極めて強く依存した現象であるため、気液の分離や気体の捕集などを微小重力環境で行う場合には特別な技術を必要とする。すなわち、微小重力環境下では、流体内の密度差などに起因する浮力が働かないため対流が起こらず、また沈殿による分離も発生しない。このような特性を利用して、大型単結晶を製造したり、均一な合金を製造することが考えられている。しかしながら、初期溶融状態において物質内に気泡が発生した場合、微小重力環境下では気泡はその場に留まることになり、製造される材料に対して純度・強度等が劣化するなどの悪影響を及ぼすことになる。すなわち、微小重力環境下において気泡を駆動・除去する技術の確立が、微小重力環境下での材料製造を行う上で必要不可欠である。

これまで、電場や磁場あるいは温度差などを利用して気泡を駆動することが試みられてきているが、実用的な技術として確立されるまでには至っていない。本研究では、微小重力下における気泡挙動の制御手段として超音波の利用を考え、その基礎技術を確立することを目的とする。

 

 

《超音波による気泡制御の原理》

Fig.1は液中の気泡駆動を例にとった原理図である。液体に満たされたガラス管の上下に超音波振動子を設置し、ガラス管内に音響定在波を形成させる。その音響定在波中に気泡を注入すると、気泡は定在波の節に留まる。さらに、一方の超音波振動子の位相を変化させることによって音響定在波を駆動させると、気泡は定在波の移動に伴い軸方向に移動する事が期待される。

 

《実験装置概要》

Fig.2に実験装置の概要図を示す。

関数発振機より発振された正弦波信号は、アンプにより増幅され、電力計を介して各テスト部の超音波振動子を駆動させる。テスト部(a)は内径40mm、長さ300mmのガラス製円管、発振周波数約14kHzの超音波振動子、超音波伝送体であるホーンからなる。駆動された超音波振動子より発生した超音波はホーンを介して、ガラス管内の液体中に放出され、ホーン先端と自由液面との間に音響定在波を形成する。テスト部内の音圧は、ハイドロフォンからなる超音波メーターで計測される。

テスト部(b)は、内径22mmのガラス管からなり、上下に発振周波数19.3kHzの超音波振動子をホーンとともに接続している。液体で満たされたガラス管内に、上下の超音波振動子から超音波を発生させ、音響定在波を形成させる。その音響定在波中に気泡を注入し、一方の超音波振動子の位相を変化させることにより音響定在波を駆動する。

Fig.2 Schematic diagram of experimental setup

 

《超音波伝送体の製作》

より大きな気泡を定在させるためには、より均一な水中音場、より大きな音圧を得る必要がある。それらは、超音波伝送体であるホーンの特性によるところが大きく、そのホーンの性能を向上させることにより達成できると考えられる。そこで、大径気泡を定在させるのに最も適したホーンを開発するために、有限要素法を用いた解析結果を基にホーンを製作した。

 

*  ホーン概要

Fig.3に2種類のホーンの形状を示す。

ホーンの材質は超音波振動子と同じジュラルミンとし、長さはジュラルミン中における音波の半波長の長さ175.7mmとした。これによって、ホーンの両端が超音波の振動の腹、ホーンを固定するためのフランジ部が節になる。また製作にあたってホーンと超音波振動子の接合面でのパワーロスを少なくするため、接合面の研磨を従来の研磨剤番号1500番からさらに細かい4000番で行った。図中(a)は、フラットな形状のフランジを接続した旧型のホーンであり、(b)は、テスト部壁面への超音波の逃げを防止するためにフランジ部分に凹凸部を設けてばね構造にした新型のホーンの概要図である。

Fig.3 Configuration of the horn

 

Fig.1 ホーン概要図

 
 


*  実験結果

Fig.4の上の図はFig.3(a)の旧型ホーン、下の図はFig.3(b)の新型ホーンを用いた音圧分布測定の実験結果ならびに気泡の撮影結果である。いずれの場合も超音波振動子への入力パワーは10W、テスト部内でのホーン先端からの水位は124mmである。この状態で注射器により液中に空気を注入した時の軸方向の音圧分布と気泡静止位置を示した。同じ供給電力においても定在波の腹の位置おける最大音圧は、旧型ホーンで約0.07MPa、新型ホーンで約0.1MPaであり、旧型ホーンに比べ新型ホーンでは約30%程度強い最大音圧を得ることができるとともに、軸方向に一様な強度分布となった。

Fig.4 Sound pressure and stationary bubble position

 

《超音波発振システムの構築》

 

関数発振器を用いたシステムでは、気泡の駆動距離に限界がある。そこで、コンピュータとD/A変換器を用いた制御システムを構築し、定在波を移動させることで任意の位置に気泡を駆動し、定在させるシステムの開発を行った。

 

*  実験結果

       

Fig.5a)および(b)は二つの超音波振動子に付ける位相差と気泡の定在位置の関係をグラフにしたものである。Fig.5a)は気泡を上方へ駆動した結果、Fig.5b)は下方へ駆動した結果である。

       (a) Positive direction                         (b) Negative direction

Fig.5 Bubble movement by phase shift

 

Fig.5a)ならびに(b)より、位相差を0°から360°まで変化させることによって、上方向ならびに下方向いずれの方向へも、約39mm移動できることを確認した。

 

 

《微小重力実験》

  超音波による気泡の駆動・制御技術が微小重力環境下においても実用的に用いることができるか否かを

調べるために、米国 NASA ジョンソンスペースセンターで大型航空機 KC-135 を用いた微小重力実験を行った。

 

*  大型航空機を用いた微小重力実験の概要

       

Fig.6は本実験で使用した大型航空機 KC-135である。

 本実験の特徴として、

@ 実験パラメータが多いため、人の操作を介して多数回の実験を行う必要がある。

A 取り扱う現象として役20秒程度あれば現象確認できる。

B 強力超音波を使用しており、約0.01g程度の微小重力環境であれば現象を把握できる。

があげられ、これらの特徴を総合的に考慮することにより

航空機を用いた実験を行うこととした。

     

右図KC-135の飛行概要図である。初め上向き45°で上昇し、エンジン出力を下げ、下向き45°で自由落下させるというパラボリックフライトでは高度約31000フィートから33000フィート付近において001gの微小重力状態となり、逆に高度約24000フィートから31000フィートでは約18gの重力超過状態となる。

 

       

Fig.8は加速度計によって測定した重力方向の加速度の測定結果を示したものである。初めの約30秒間は航空機の上昇に伴い通常重力の約2倍1.8gの重力超過状態となっている。その後、上昇から下降している約20秒間、約0.01gの微小重力状態が達成される。実験はこの約20秒間の微小重力状態において行われた。

 

 

*  実験の様子

*  実験装置

       

右図は航空機実験用装置である。

装置は、NASAのマニュアルに従った強度解析及び電気解析により設計された。

 

*  実験結果

微小重力環境においても地上と同様に音響定在波によって気泡を留め、駆動することができた。

 

 

《まとめ》

        ホーン固定用フランジ部をばね構造にした新型ホーンは、旧型ホーンに比較して同じ入力電力に

対してより大きな最大音圧を達成するとともに、より均一な音圧分布を実現し、気泡を安定させて定

在させることができた。

        発振システムを新たに構築することにより、テスト部軸方向の任意の位置に気泡を駆動することができた。

        微小重力環境においても地上と同様に音響定在波によって気泡を留め、駆動することができた。