蒸気爆発のトリガー条件に関する研究
濱田 幸宏
● 蒸気爆発
大きな温度差のある二液体が接触した際に高温側の液体から低温側の液体へ極短時間で伝熱が行われ、低温液の激しい蒸発(相変化)作用が周囲環境の被害拡大につながる爆発的な現象となる場合がある。このような衝撃的な圧力波を伴う現象を蒸気爆発(Vapor
Explosion)と呼ぶ。特に金属工場、火山の噴火及び原子炉分野における安全性を確保する上でその発生条件やその詳細なメカニズムを研究することは非常に重要となる。
蒸気爆発に至るためには左図で示される熱的デトネーションモデルをたどる必要があるとされている。まず、蒸気膜で覆われた高温融体の分散混合(Coarse
mixing)により蒸気爆発を準備し、自発及び外的要因によるきっかけ(Trigger)により低温側の激しい蒸発につながる。その際に発生した圧力波が同時に全体に伝播することによって大規模蒸気爆発は発生するといわれている。
● 蒸気爆発のトリガー条件
蒸気爆発のきっかけを与えるトリガーの詳細としては、高温融体周囲の蒸気膜崩壊による両液の直接接触で急速な熱の移動が行われ、その過程の中で高温融体がμmオーダーにまで細かく分裂する微粒化(Fragmentation)によって莫大な熱量の移動が実現される。そのため、蒸気爆発は蒸気膜不安定の進展ならびに界面の液液接触ならびに液滴不安定伝播の一つの因子でも阻害されるような事があれば、蒸気爆発は発生しないものと考えられる。しかし、非常にその機構は複雑かつ高速で未だにその詳細はわかっていない。
そこで本研究では蒸気爆発に必要となる又きっかけを与えるトリガーを明らかにする上でそのプロセスを明確にすることは非常に重要であると考えている。そのため各種高温溶融液滴用い、蒸気膜崩壊以降の液液接触及び液滴微粒化のプロセスの検討を遂行するため、自発ならびに強制的な蒸気爆発実験を行った。
● 実験装置
溶融液滴(Sn,Pb,Al,Zn(400-900℃))を蒸留水(0-80℃)で満たされたステンレス水槽(700×60)内部に落下する単一溶融液滴落下実験を行った。温度測定としては投入溶融温度と水温を熱電対で測定、発生圧力は圧力トランスデューサーによりアナライジングレコーダーを介しパソコンにデータ−は転送される。同時にその圧力信号により高速度カメラが作動される。
-実験方法-
(自発的) 静的自由落下による圧力波及び高速度カメラの同時計測。
(強制的) 液滴落下に際し光センサーが感知し信号を送ることによって窒素ガス駆動のもとピストン底部を打撃。それにより水槽下部から圧力波を発生し、液滴挙動の圧力波及び高速度カメラの同時計測を行う。
● 実験結果(自発的)
左図は実験映像を示し、右図は実験結果を示します。左上の映像はSn(605℃)-水(39.8℃)の蒸気爆発映像を示す。矢印で示される局所的な微粒化の後、全体に伝播する様子がわかる。左下の映像はPb(550℃)-水(20.2℃)の映像で局所的な明瞭な微粒化は観察できなかったが、最終的には爆発様相が観察される。
右図の縦軸に水温、横軸に高温溶融温度をとった際に、黒印とした爆発が確認されたものは、ある温度領域において高い確率で発生したSnのみであった。
Pbはその発生確率は低く、Al,Znに関しては、本実験において蒸気爆発は確認できなかった。
● 熱的相互作用領域
先ほどのSnでの実験結果で示すような、実験的に蒸気爆発が発生しやすいとされる温度領域を熱的相互作用領域と呼ぶ。その発生条件は、@サブクールによる蒸気膜の安定性とA右式(※)による直接接触した界面温度で評価できる。
@は低温液の発生上限を制限する。
Aは自発核生成モデル(温度しきい説)に基づき、高温液の発生下限を示す。
● 界面温度と凝固温度
直接接触した際の界面温度は低温液体の温度と高温液体の温度で決まる。左図は接触界面が均質核生成温度となるものを黒い実線で、接触界面が固化温度となるものを赤い点線で示す。Snにおいては均質核生成が発生する領域においては常に液体状態である。一方Al,Znにおいては固化する温度が右側にあり蒸気膜が崩壊し、接触した時点においては界面が凝固している可能性が高く微粒化が発生しにくかったことが考えられる。
● 圧力波に付加による強制的蒸気爆発実験
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● まとめ
トリガープロセスを検討する上で自発的蒸気爆発(静的な落下)実験をおこなった。その結果、錫のみに関して自発的な発生領域が示され、アルミニウム、亜鉛に関しては、どの温度条件下においても微粒化は確認できなかった。このことは、界面が凝固する条件が高いことで固液体系となりやすく蒸気爆発へと進展しなかった可能性が高いと考えられる。