蒸気爆発のトリガー条件に関する研究
〜高温鋼球表面上の蒸気膜の微視的崩壊挙動〜

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 Index
  研究の背景 〜Background of Study
   蒸気爆発とは 〜What is Vapor Exprosion?
    トリガプロセス 〜Trriger Process
     研究目的 〜Objective of Study
      実験方法 〜Experimental Procedure
       実験装置 〜Experimental System
        実験結果 〜Experimental Result
         気液界面のPIV解析 〜PIV analysis
          熱伝導解析 〜Heat Conduction analysis
           実験・解析結果および考察 〜Results and Dicussion



研究の背景〜Background of Study

現在までに、様々な工業分野や原子炉におけるシビアアクシデント時において、蒸気爆発現象によるものと思われる事故が多数発生しており、その予知・防止が急務となっている。
主な事故例としては
 ・1958 茨城県鹿島コンビナートにおける事故
 ・1961 アメリカ陸軍の軍用原子炉SL-1における事故
 ・1990 山形県廃品処理工場における事故
などが挙げられる。

蒸気爆発現象の予知・防止を目的とした研究は各方面で盛んに行われているが、蒸気爆発現象は非常に短時間に起こる現象で、その上様々な要素を含んだ複合的な現象であるため、その解明は極めて困難とされている。

蒸気爆発とは〜What is Vapor Exprosion?
水蒸気爆発とは、高温高沸点液体と低温低沸点液体が接触し低温低沸点液体が急激に蒸発・膨張する現象であり、その際高い圧力ピークが発生する。
現在、蒸気爆発現象を記述するモデルのひとつとして、熱的デトネーションモデルが提唱されている。
左図は、熱的デトネーションモデルに基づく蒸気爆発現象の素過程を示したものである。

(a)高温に加熱され溶融した金属などの高温高沸点液体と冷却水などの低温低沸点液体が何らかの原因で接触する。

 (b)高温高沸点液体が低温低沸点液体中で小さく分散し液滴となり、それが膜沸騰を伴って低温低沸点液中に存在する粗混合状態。この状態では蒸気の生成は穏やかであり、急激な圧力ピークの発生は見られない。

(c)内的あるいは外的なトリガとなる圧力波の発生および伝播、それにより高温液滴が微小な粒子になる微粒化現象、微粒化による表面積の増大および急速な熱の移動

(d)低温低沸点液体の急激な蒸発、それに伴う急膨張および圧力ピークの発生。そして大規模な蒸気爆発現象の発生

この粗過程において、大規模な蒸気爆発現象の発生にはトリガの発生、高温液滴表面上の蒸気膜崩壊、微粒化などが要因となっていることがわかる。


トリガプロセス〜Trriger Process
右図は、上図の(b)(c)にあたる蒸気爆発発生のトリガプロセスである。

これは、粗混合状態から

1、高温液滴表面上に形成された蒸気膜の崩壊

2、高温液体と低温液体の直接接触

3、高温液滴の不安定化

を経て微粒化にいたると考えるプロセスであり、1〜3のいずれが欠けても微粒化は起こらず、蒸気爆発にはいたらない。



研究目的〜Objective of Study

本研究では、トリガプロセスにおける最初の「きっかけ」となる高温粒子表面上の蒸気膜の崩壊現象に注目し、様々な条件における蒸気膜の崩壊挙動の伝熱・流動特性を調べることで、その微視的挙動を把握することを目的としている。

その具体的な内容として、以下のような事柄を行っていく。
 1、蒸気膜の微視的な崩壊挙動の可視観測
 2、蒸気膜崩壊時の蒸気−液界面の速度場計測
 3、蒸気膜崩壊時の蒸気膜周りの熱伝導解析





実験方法〜Experimental Procedure

本研究では、試験片としてφ15mmのステンレス球を使用した。そのメリットとして

1、本研究の目的は蒸気膜の崩壊現象に注目しその挙動を可視観測することにあり、蒸気膜の崩壊とほぼ同時に起きると考えられる微粒化の影響を排除して実験を行うことができる。

2、本研究では蒸気膜の微視的崩壊挙動を可視観測することであり、実験装置に固定できるステンレス球を用いることで局所的に観察することができる。

などが挙げられる。

左図は、本研究で行った実験方法である。
(A)ステンレス球の加熱
ステンレス球を設定温度(約700℃〜1000℃)までバーナーで加熱する。

 (B)蒸気膜の形成
設定水温(サブクール約10℃〜60℃)に保った水を満たしたテスト部にステンレス球を挿入し、ステンレス球表面上に蒸気膜を形成させる。

(C)トリガとなる圧力波の発生
圧力波発生装置により所定圧力を発生させ、蒸気膜を強制的に崩壊させる。

このときの蒸気膜崩壊挙動を最大撮影速度40,500fpsの高速度ビデオカメラ(FHOTRON Fastcam-ultima)で撮影する。 また、同時にステンレス球の表面温度ならびに周囲の圧力を計測した。


実験装置〜Experimental System

右図は本研究で用いた実験装置の概念図である。

テスト部 →詳細
テスト部は内径53mmの角パイプを使用している。中央3面に観察用のポリカーボネイト窓、残る1面にステンレス球周辺圧力測定用の圧力トランスデューサ、その上50mmに水温変化測定用のシース熱電対を取り付けている

ステンレス球 →詳細
ステンレス球は、表面温度計測用のシース熱電対によってテスト部中央に吊り下げられている。

実験データ
各計器から発せられる電圧信号はアンプを介しアナライジングレコーダに収録され、実験終了後にパソコンに取り込んでいる。

高速度ビデオカメラ
高速度ビデオカメラは、アナライジングレコーダから発せられるトリガ信号により撮影を開始する。

圧力波発生装置
圧力波発生装置は、窒素ガスで駆動する弾丸をテスト部下部のピストンに衝突させることにより圧力波を発生される仕組みとなっている。


実験結果〜Experimental Result

左図は実験結果である。
グラフは、ステンレス球の表面温度、周囲圧力、および可視観測結果から求めた蒸気膜厚の時間変化を示したものである。
初期ステンレス球表面温度は約700℃、液体のサブクールは約20℃の場合である。
画像は、ステンレス球の右側側面を可視観測した結果である。これらの画像は40,500fps(frames per sec)で撮影したもので、グラフ中のA〜Fに対応している。

グラフ
圧力波の到達と同時にステンレス球表面温度が急降下する様子が計測され、膜厚が減少していることがかる。その後、圧力波の通過とともに膜厚が増加している様子が観察された。

可視観測結果
圧力波が到達する以前、時刻Aにおいて鮮明で滑らかな蒸気膜が観察されていた。
圧力波が到達した時刻B付近において、蒸気膜内が白く濁る現象が観察された。
その後、ステンレス球表面全体から激しい蒸気の生成が見られた。



40,500fps Visual Ovservation


→4,500fps Visual Observation (2.85MB)




気液界面のPIV解析〜PIV Analysis


PIVとは"Particle Image Velocimetry"のことで、連続する2枚の可視観測結果の相関関係を解析することにより、速度場の評価を行う手法である。

本研究では、蒸気−液界面変動の速度場の評価方法として、この手法による解析を導入した。

PIV解析は、これまで巨視的で比較的緩やかな流れ場を解析する手法として各方面で幅広く用いられてきているが、本研究のように微視的で非常に短時間に起こる現象に対して適用された例は少ない。

左図は本研究で行ったPIV解析の方法である。
2枚の連続した可視観測画像を選び出し、その気液界面情報(輪郭)をかたどり、その画像を小さな格子に分割する。
それぞれ対応する位置の格子画像の相関関係(位置関係)を解析することにより変動した距離・および角度を計算する。
この作業を分割したすべての格子に対して行うことで、元の輪郭情報の速度場を計測することができる。


熱伝導解析〜Heat Conduction Analysis



これまで膜沸騰現象を解析するとき、気液界面を飽和温度と仮定した熱伝導解析は各方面で多く行われてきたが、本研究においては可視観測結果より蒸気膜厚が実験より算出することができ、それを境界条件としてあたえることができる。そのことにより、気液界面温度の評価が行えると考えられる。

右図は、本研究で行った熱伝導解析の解析モデルである。
ステンレス球、蒸気膜、液相の3層モデルを考え、1次元熱伝導方程式を数値解析することにより解析を行った。
このとき、境界条件として実験より得られた鋼球表面温度Tw、水温Tl、蒸気膜厚δを用いた。




実験・解析結果および考察〜Results and Discussion


左図は、実験結果・解析結果である。

上グラフ
実験より得られたステンレス球周りの圧力変化、可視観測画像から求めた蒸気膜厚を示している。
圧力波の到達と同時にいったん膜厚が減少し、圧力波の通過とともに増加していることがわかる。

下グラフ・可視観測結果・PIV解析結果
実験より得られたステンレス球表面温度、熱伝導解析より得られた気液界面温度および水の飽和温度を示している。
下の画像は可視観測結果、その下はPIV計測結果を示している。

圧力波の到達する以前の時刻Aにおいて、気液界面温度より飽和温度が低く評価され、ステンレス球表面において鮮明で滑らかな蒸気膜が観察された。

圧力波が到達した時刻B付近において気液界面温度より飽和温度のほうが高く評価され、蒸気膜内が白く濁る現象が観察された。
このことより、この現象は気液界面温度が水の飽和温度よりも高くなることによる凝縮現象によるものであることが示唆された。

時刻Cでは、気液界面温度と飽和温度の差がさらに大きくなり、PIV解析結果より半径方向外側に向かう速度場が計測された。

時刻Dで激しい蒸気の生成がみられ、時刻E以降でまた気液界面温度より飽和温度が低く評価され、激しい蒸気の生成が観察された。