World Trade Centre(WTC)崩壊について
                         2001/09/20    鈴木研究室



1.経緯
 ボーイング767型2機が、燃料や乗客を積んだまま、110階建てのワールド・トレード・センター(WTC)2棟に、次々に突っ込んだ。1機目は北棟の一側面の真ん中の80階の高さに、2機目は南棟のコーナーに近く、60階くらいのところにしかも斜めに突っ込んでいる。突入直後・火災発生直後は、外から見て、崩壊の兆候はない。突入後の火災の後、何れも崩落している。先に南棟が突入後約50分後に、次に北棟が突入を受けて約1時間40分後に崩壊した。更に2棟が崩壊してから約6時間後、延焼を受けたのであろう低層部に火災を被っていた47階建てのソロモン・ブラザーズビルも崩壊した。その後、マリオットホテル(21階)とノースイースト・プラザビル(9階)も相次いで倒れた。その他にも倒れてはいないが、損傷を被ったビルがある。

2.建築概要
高さ:北棟417m 南棟415m
平面プラン:63.5×63.5m
コア部分:24×42m
階高:3.66m 天井高:2.62m
玄関ホールの天井高:22.3m
 側柱:本数59本(一辺あたり) BOX450×450mm
      1階フロア−面上で3本が1本になり21本になる。
             そのサイズはBOX800×800mm
  コア部:本数44本
梁:丈900mmの鉄骨ラチス梁 
  デッキプレート上の10cm厚の軽量コンクリートからなる。
  外柱(側柱)とコア間の大スパンに架かっている。
スラブ自重:50kg/u
有効積載荷重:488kg/u
耐火被覆:吹き付け
面積と容積   延床面積:418,000u 建築面積:4032u
          有効面積:319,000u 建築容積:1754,000u
鋼材量     総量:78000t 延床面積1平方メートルあたり:186.6kg
       1立方メートルあたり:44.5kg 有効面積1平方メートルあたり:244.5kg 


3.WTC2棟の崩落メカニズム
(1)飛行機の建物への突入
 側壁の破壊(北棟で一つの側面の3/4ほどの径の穴があいた)
   平面保持で計算すると柱応力は最大で、側柱が1.8倍、
    コア柱が1.5倍ほどに増える。
 内柱(コアの柱)も幾ばくかの損傷を受けたであろう。
 耐火被覆も一部は脱落あるいは剥離したであろう。
 飛行機の荷重自体は床の設計荷重に比べてごくわずかである。

(2)突入した飛行機のジェット燃料の爆発的燃焼とこれに伴う火災の発生
 火災性状は通常のそれを上回るであろう。どの程度かは今後の詳細検討を待つ。
 火災階の柱、その直上の床を支持する梁が加熱される。
 鋼材の強度は約400℃を超えると低下を始め、600℃で約半分に、800℃で約1割に低下する。下図参照のこと。

(3)柱に座屈の発生 これが崩落の引き金 コア柱あるいは側柱の座屈によって、火災層より上層にある部分全体がほぼ一体となって下方へ落下運動を始める
 コア柱座屈の場合は下へ真直ぐ(北棟)、側柱座屈の場合は傾きながら(南棟)落下する。
 座屈にいたる前に、局所加熱を受けた柱に局部座屈が発生したかも知れない。直上階の床がハンモック状に垂れて、柱を引き込んだかもしれない。あるいはハンモックの付け根、つまり梁端が破断したかも知れない。何れも柱の座屈を早める。

(4)上層全体が火災階の床レベルまで落下すると、落下物の荷重の一部が火災層の床に載ってしまう。このとき衝撃は当然あるわけであるが、特に衝撃の影響を強調するまでもなく、火災層の床に載る落下物荷重が床を支える梁の強度を超えてしまうと、火災層の床は下方に崩壊せざるを得ない。
 この床の下への崩壊は、梁端の柱への接合方法の貧弱さを見ると、梁端の破断と思われる。火災層の床を支える梁の温度はむしろ常温に近いことに注意。梁端の強度がこの火災によって弱まっているわけではない。にもかかわらず破断するであろう。床に載る荷重は大き過ぎた。

(5)これでこの建物の運命は決した。
もう一つ下の階の床は火災階の床よりも、火災階重量分だけ、重い落下物を支えなければならないが、これは不可能だからである。


(6)各階の床の落下が下層に向かって連鎖的に進行する。
 床が落下する過程で、梁端ばかりでなく、柱同志の継手も引きちぎられている。側柱は、メタルタッチでつなぐ設計が採用されており、柱と柱はボルトで軽く接合されているに止まる
この継手は弱く、柱はここで引きちぎられる。実際側柱の残骸は散乱した割り箸のように真直ぐな状態になっている。


4.一連の建物崩壊に学ばなければならないこと
(1) 事故の語る重大な情報を抽出するのは技術者の使命。技術者が多くの犠牲者に報いることが出来るのは、ただこの点のみ。

(2) 突入後の損傷架構の損傷度、残存性能の把握。

(3) 火災性状の把握。

(4) 柱の座屈時点の部材温度把握。

(5) 第3番目のビルの崩壊原因、プロセスの把握。これに関する情報は少ない。

(6) WTCの火災温度と、座屈時部材温度をなるべく正確に推定し、これらと、わが国の耐火設計で想定する火災温度と部材温度を比較し、両者にどの程度の開きがあるかを定量化する。

(7) 第3番目のビルの例は、震災後のビル火災に似てはいないか。これを分析してみよう。

(8) 耐火設計上、柱が座屈するのは極めて致命的ではある。しかし、事故は、鉛直荷重に対するWTCのリダンダンシーが余りに欠如していることを語っている。しかし、今までこれを考えた人はほとんどいない。いわば、技術の空白地帯である。これを考えることは耐火設計にせよ構造設計にせよ過剰過ぎるだろうか。わが国のラーメン、ブレース架構の場合、火災時に柱が座屈した後のリダンダンシーの実態はどのようであろうか。区画設計で、これにある程度応えることは出来るのではないか。座屈した柱の不足耐力を健全部分に再配分する構造設計は積極的であろう。等々を考えて見たいと思う。


5.安全は技術の信頼性の検証から
 わが国では総ての建物に対して法令に基づいた耐火設計が義務付けられている。たとえば、超高層建築物の下層部は、従来、3時間の耐火性能が求められており、一方、通常どんな火災も3時間は続かないから、建物は十分な耐火性能を有していると考えられる。今日では、法令改正を経て、より合理的で安全な新しい耐火設計が施行され始めている。新法下では、柱の高温座屈は最重要検討項目の1つである。WTCの崩落は、異常な火災が原因であるが、空前かつ再び得ることが出来るとは思われない火災崩壊事例であるのでこれを分析する価値はきわめて大きい。この事故で観察される諸量と、わが国の耐火設計で想定する諸量がどの程度接近しているか、あるいはかけ離れているかを検証して、我々の耐火設計の位置を見極め、その信頼性を検討することが大切だと思う。

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